想い

#26 ページ26

shima




「心の中のコップに、少しずつ水が溜まっていく。些細なことでも気付かないうちに溜まっていく。

逃げ場ない水はずっとそこに溜まり続ける。

そして、いずれはそのコップは、満杯になる」


「……うん」


「だけど、その水がこぼれそうなことに自分では中々気が付かない。……気が付けない、のほうが正しいかなあ。

……最後の一滴が落ちた時、いとも簡単にコップの水は溢れる」



彼女は大きく息を吐きだすと、鈍く光る目で俺を見据えた。



「溢れる前に、手を差し伸べてくれる人がいることってすごく大切ですよね」



力ない笑顔を見せたAさん。まるで自分たちは無力だ、と言わんばかりに。



人それぞれコップの大きさは違う。
水が減ることなく溜まり続けたコップは、無理に動かせば溢れるし、それ以上水が加わっても溢れる。


誰かにそこで、水を吸い取ってもらえれば＿＿＿＿


彼の“未来(今)”は変わっていたかもしれない。



誰と出逢うか、誰が気付くか……。
ひとつひとつがスイッチになる。



＿＿＿無意識に自分の過去を重ねてしまった。

返す言葉を見失っていると、Aさんはわざとらしく舌をぺろりと出した。


「ごめんなさい、少し弱音を吐きました」

「……謝る必要はない。こうやって吐き出すことが大事だと思うよ。俺ならいつでも聞くし」

「わ、心強い。ありがとうございます」



さあ行くよと、軽く彼女の頭に手を置いた後、俺は先に車へと戻った。






.

.

#27→←#25

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す