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(藍沢side)
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Aが入院して4日が過ぎた。
彼女がいたら、と思う瞬間はたまにあるけれど、救命の現場に大きな支障はない。
“自分が抜けてもきちんと機能するくらいにはフェローちゃん育ててきたつもりだったしねぇ”
そう笑った彼女の言葉は本物だった。
毎日時間を見つけては病室を訪れている。けれど、伝えたいことはまだ伝えられていない。
「少しでも長くそばにいて欲しい」
このひとことが未だ口にできない。
医者として働いている以上、例え命より大事なものがあったとしても、救うことに全力を尽くさないわけにはいかない。
ただ、彼女は違う。
医者という身分以前に、自分の中にある大切な人。
それでも____
それでも、嫌われてもいいから治療を勧めるべきだと思っている。これが本音。
今までも、多くの人間にそうしてきたように。
生きて欲しい。
命より大事なものがあったとしても。例え命を救うためにそれが失われようとも。
今日こそは_____。
そう思いながらエレベーターへと乗り込んだ。
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病室へ向かう廊下で、見慣れた人影が誰かと会話しているのを見つけて足を止める。
向こうもこちらに気づいたようで声をあげた。
「藍沢。ちょっといいか」
橘先生が曇った表情で手招きをする。
側に行くと、橘先生の隣にいた女性の顔がはっきりと目に映り、少し驚いた。
「………佐倉」
「お久しぶりです、藍沢先輩」
そういってぺこりと頭を下げたのは、翔陽大学病院本院の血液内科に勤務している佐倉あみだった。
「お。なんだ、2人は知り合いか?」
「藍沢先輩は大学時代の先輩なんです」
へえ、と面白そうに橘先生が俺たちを見比べる。
俺たちのひとつ下。はきはきして元気が良い声と笑顔が特徴的だ。
Aとも親しく、大学時代は2人でしょっちゅう会っていたのを覚えている。
本院と北部病院とで勤務が違ったから、こうやって会うのは久しぶりな感じがする。
「どうしてここに」
「私、慢性骨髄性白血病の論文書いてて。如月先生とA先輩にお願いされて、たまにこっちにきてたんです」
……なるほどな。
俺が状況を把握し終えたのを確認すると、橘先生が一枚の紙を差し出して、佐倉へ続きを促した。
「で、昨日の検査結果が出たんだけどな」
「……思った以上に進行が速いんです」
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ココロ(プロフ) - あみさん» いいえ〜〜!こちらこそリクエストありがとうございました(^O^) (2018年9月22日 21時) (レス) id: 34372602a7 (このIDを非表示/違反報告)
あみ(プロフ) - リクエスト書いていただけて感謝感謝です( ; ; )ありがとうございます!これからも応援してます! (2018年9月22日 16時) (レス) id: d3315f5237 (このIDを非表示/違反報告)
ココロ(プロフ) - ゆめさん» こちらこそいつもお読みいただき本当にありがとうございます!そう言っていただけてとても嬉しいです!!(^O^)完結まで精一杯頑張ります!!!! (2018年9月17日 17時) (レス) id: 34372602a7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ(プロフ) - 更新ありがとうございます!学生さんとお見受け致しますが、きちんとした日本語そして文章力で大変読み易くて楽しませていただいております。お忙しいとは思いますが、完結まで心から応援させていただきます。頑張ってください!∩^ω^∩ (2018年9月17日 0時) (レス) id: edc643c87b (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 作品みてくれるの!?ありがとう!まじ感謝。 (2018年9月12日 18時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:kokoro | 作成日時:2018年9月11日 18時