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(藍沢side)
「ありがとう、耕作。……もう大丈夫。
今までのこと話すから聞いてくれる?」
しばらくしてAは俺の目をしっかりと見つめて尋ねてきた。
その瞳に、迷いはなかった。
「ああ。ゆっくりでいい。話したいことだけでもいい。ちゃんと聞く」
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Aは、病気が判明したときのことから全てを話してくれた。
初めは自分も信じられなかったこと。
辛い治療に耐えながら頑張ってみたけど、好転しなかったこと。
ここ最近、不調を感じていて何となく悪化しているのが分かっていたこと。
そして____
今でも治療する意思はないということ。
橘先生から考えてみてくれと頼まれたらしいが、それでも気持ちは変わらないらしい。
自分らしく生きることをとるのか、ほんの僅かな可能性にかけるのか。
もし、自分が同じ立場だったら?
そう考えると、今まで共に医者として成長しあってきた彼女に、治療をして欲しいという言葉を簡単に口にすることが出来なかった。
「ごめん、こんなこと言われても困るよね。
耕作を悩ませちゃう答えだっていうのは分かってるんだ。でもやっぱり医者でいることを諦めたくなくて。残りの人生、自分で決めたいんだ」
黙り込んでいると、バツの悪そうな顔をしているAが、笑ってそう言った。
ただ、目は真剣だ。
ひとりの人間として彼女の意見を尊重したい。
それでも____
“俺は1秒でも長く生きて欲しい”
だけど、その想いを言葉にすることができなかった。
彼女のことを第一に考えると、どうしても伝えられなかった。
俺の気持ちを押し付けてAの未来を変えていいのか?
僅かな可能性を完全に諦めていいのか?
___悔しい。
悔しいけれど、いくら考えても答えが出なかった。
なかなか口を開けず、時間だけが過ぎる。
そんな中、沈黙を破ったのは携帯の呼び出し音だった。
「……わかった。すぐ行く。 A、悪い」
ICUでの患者の急変だった。
座っていた椅子を片付け、Aに布団をかけ直す。
「こちらこそごめんね、時間取らせて。
明日の朝のカンファレンスで、みんなには病気のことちゃんと説明するから。
じゃあいってらっしゃい」
「……また来る」
笑顔のAに見送られ、少し後味悪く部屋を出た。
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ココロ(プロフ) - あみさん» いいえ〜〜!こちらこそリクエストありがとうございました(^O^) (2018年9月22日 21時) (レス) id: 34372602a7 (このIDを非表示/違反報告)
あみ(プロフ) - リクエスト書いていただけて感謝感謝です( ; ; )ありがとうございます!これからも応援してます! (2018年9月22日 16時) (レス) id: d3315f5237 (このIDを非表示/違反報告)
ココロ(プロフ) - ゆめさん» こちらこそいつもお読みいただき本当にありがとうございます!そう言っていただけてとても嬉しいです!!(^O^)完結まで精一杯頑張ります!!!! (2018年9月17日 17時) (レス) id: 34372602a7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ(プロフ) - 更新ありがとうございます!学生さんとお見受け致しますが、きちんとした日本語そして文章力で大変読み易くて楽しませていただいております。お忙しいとは思いますが、完結まで心から応援させていただきます。頑張ってください!∩^ω^∩ (2018年9月17日 0時) (レス) id: edc643c87b (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 作品みてくれるの!?ありがとう!まじ感謝。 (2018年9月12日 18時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:kokoro | 作成日時:2018年9月11日 18時