1,小さな犠牲と大いなる奇跡 ページ1
世は安穏を迎えようとしていた。
ここ数年、酷い飢饉が続いていた。
最も、宮殿には何の影響も無かった。
だが皇帝にとっては大きな問題であった。
民の名声が、皇帝の立場を左右するからである。
皇帝が動けば宮殿は変わる。
高い地位に就いていた者でさえ、随分と入れ替わった。
そんな飢饉は、西部にも影響を及ぼしていたようだ。
国の大事な交易相手が滅んでしまえば死なば諸共。
両国の均衡を保つため、皇帝の側室となった西部の少女。
それが、皇女A様の母親である。
こうして人と人との交わりを兼ねて、ようやく国は活気を取り戻しつつあった。
そんな時だった。
側室が子を欲しがったのは。
皇帝は首を縦に振らなかった。
分娩に腕の良い医官も居なければ、妊娠中に栄養のある食事も、薬も直ぐに手配できる状況では無かったからだ。
だが側室は、頑なに子を欲しがった。
今で無くてはならないと。
神の御加護かあるうちにと。
側室は西部の宗教を信仰していた。
「主上!!皇女様がお生まれになりました!!!!」
帝「っ本当か!!」
側室の様態から、流産や死産が皆の頭をよぎっていたからして、皇女の誕生は正に《奇跡》だった。
「っですが、、側室様は、、、、」
帝「、、、、そうか。」
側室の死は免れる事が出来なかった。
皆が悲しみに暮れただろうが、誰も嘆く者は居なかった。
自分で望んだのだ。側室様は。
こうなる事をわかっていて、何て、、、、、、、、
皇「とうさま、私、いもうとがみとうございます。」
次期皇帝、皇太子の一言に、皆がいそいそと歩き出す。
医「主上様、御覧下さい。見ての通り、元気な皇女様です。」
皆が彼女に目を奪われた。
目も髪も、母親を想起させるが、母親とは違う色味をしていた。
天使の様だと言えば、上手く伝わるだろうか。
奇跡の子だと、誰もが思った。
安心出来る者を探すように手足を動かし暴れ泣きじゃくる赤子を、皇帝が抱き上げる。
皇「、、、、かわいらしいです。」
帝「ああ、未来は明るいな。」
まだ何も見えていないだろう2つの眼が、父親を捉えて嬉しそうに細まる。
この子は母親を知らない。
私が精一杯愛さねばと、皇帝は胸に誓った。
そうして皇女の誕生が祝われた。
側室が死んだというのに、皆が喪に服すことを忘れ、盛大に祝われた。
死んだ者は、そうやって忘れされられていくのだ。
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作者名:かんちゃん | 作成日時:2024年3月4日 0時