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一日中いろんなところをうろついて、クタクタになってようやく自宅の駐輪場に戻ってきた。
遠くの方から、17時を知らせるチャイムが聞こえてくる。
汗を拭いながら階段を登ると、
「……健」
ちょうど家から出てきた彼が、私を見て軽く手を挙げた。
「おかえり。どこ行ってたの?」
「いつものパートだよ」
数秒の沈黙があった。
もわもわとした暑い空気が体にまとわりついて、
拭ったばかりの首筋に再び汗が流れた。
「A。ホントはどこにいたの?」
「疑ってるの?」
「俺はAのこと知りたいだけ」
「だからパートだってば」
「じゃあいつものリュックは?スーパーの特売日なんだから、寄って帰るはずじゃん」
すっかり忘れていた。今日がその日だと。
だからもう少し遅く帰らないと、彼に気づかれてしまう。
「あと、パーカーはウチにあったよ」
いや……多分、彼はもう気づいてる。
「答えらんない事情があるわけ?」
「私はこんなに我慢してるのに」
言い返してしまって、ハッとした。
私さえ我慢すれば上手くいく。
そう思って全て繕ってきたはずなのに、それを自らの手で台無しにしようとしている。
「どういうこと?ちゃんと説明してよ」
「健が説明するのが先でしょ」
言っちゃった。
ああ、終わっちゃったな。
最悪のカタチで。
「ごめん、聞かなかったことにして」
そう言って笑った。
今更取り戻せないけど、せめてこの悪い空気を緩和させたいというズルい行動。
「無理だよそんなの」
健の言葉はごもっともだと思った。
聞かなかったこと、だなんてそんな都合のいい話ないよね。
「それって、俺がAにずっと我慢させてたってことだよね……?ごめん。本当にごめんなさい」
「……え?」
「だから、お願い。Aがどんなこと我慢して、苦しんでたか教えてほしいの」
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ヨ-リン(プロフ) - 西鶴さん» 西鶴さん、いつもありがとうございます。同じくです。ずっと音楽や映像を見て浸っています。 (2022年3月17日 23時) (レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
西鶴(プロフ) - (元 藍琉)私も未だに未練タラタラでYou○ube ○usicで音楽聴いて、You○ubeで動画見て、CDを流しての繰り返しです。 (2022年3月12日 14時) (レス) @page18 id: 6dde35b37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヨーリン | 作成日時:2022年2月22日 23時