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健のことは信じたいと思うのに、どうして疑ってしまうんだろう。
いわゆるオンナの勘ってやつ。
厄介なアンテナだ。へし折ってやりたい。
幸せな気持ちだけを感じていたいのに。
「A!」
名前を呼ばれ、驚きのあまり手に持っていたドリンクチケットを落としそうになった。
「あ、あれ、健?」
いかにも今気づきました、という雰囲気を装って微笑む。
「電話しても通じないから心配したじゃん」
「あ……」
サコッシュの中のスマホを確認すると、画面は真っ暗。ボタンを長押ししたら、次々に通知が流れ込んできた。
「もお。会場出たならスマホの電源入れててよ」
「ごめん。つい、うっかり」
「でも凄くない?俺の勘当たっちゃった。終わったばっかだし、まだそう遠くに行ってないと思ったの」
汗をかいて乱れた髪の毛をかきあげ、彼は笑っていた。
「そうなんだ、凄い。ありがとう」
私を探すために出てきてくれたんだ……
嬉しい。
だけど、手放しで喜べはしない。
「でも、こんな所にいて大丈夫?ファンの人とかに見つかって大変なことになんない?」
「大丈夫だよ。心配性だなぁ」
「あっ、でも打ち上げとかあるんじゃないの?」
「あるけど行かないもん。てかどうしたのA。元気ないじゃん。具合悪い?」
「ううん、大丈夫」
「もしかして、何か嫌なことあった……?」
「ううん、すっごく楽しかったよ。健のカッコイイところ見れてテンション上がっちゃった」
私の返事を聞いた彼は、
「それなら良かったけど」と口では言うもののあまり納得していない様子。
そういうところ鋭いから気づかれそう。
「実はね、交換し忘れてうっかり持ち出しちゃったの」
握っていたドリンクチケットを見せると、
「ホントうっかりさんだね。俺とそっくり」
そう言って目を細めていた。
私は、ホッとした。上手く話題が逸れたことに。
「ふふ、ごめん。じゃあ……おやすみ」
「一緒に帰ってくんないの?」
「ごめん。明日早いの」
「……そっか。気をつけてね。帰ったら連絡ちょうだいよ?」
眉をひそめて口をとがらせる彼に、私は「うん」と頷く。
わざとらしいほど大きく手を振って、足早にその場を離れた。
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ヨ-リン(プロフ) - 西鶴さん» 西鶴さん、いつもありがとうございます。同じくです。ずっと音楽や映像を見て浸っています。 (2022年3月17日 23時) (レス) id: 3d151d95ac (このIDを非表示/違反報告)
西鶴(プロフ) - (元 藍琉)私も未だに未練タラタラでYou○ube ○usicで音楽聴いて、You○ubeで動画見て、CDを流しての繰り返しです。 (2022年3月12日 14時) (レス) @page18 id: 6dde35b37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヨーリン | 作成日時:2022年2月22日 23時