39 ページ39
汐恩side
水瀬さんとは入社者研修以来、疎遠になってしまっていた。
たくさん話したわけでもない、仲が良かったわけでもない。
接点なんてまるでなかったが、一目惚れで彼女を好きになってしまった。
人を好きになる理由なんてこれで十分だったりする。
彼女は企画部、俺は総務部に配属となり、ますます関わりがなくなってしまった。
彼女と一緒に仕事をするなんて夢のまた夢だと思っていた。
そんな中、広報部への異動が決まった。
少し自覚はあったが、俺は容姿がかなり良いらしく、河野さんと同じ働きを期待できると言われた。
広報部の皆さんも教育係の河野さんもいい人で楽しく働いていた。
「『Beauty Under The Moon』で近々発売されるフェイスパウダーの仕事ね。
メインは河野さんなんだけど、経験を積んでもらいたいから
鶴房くんにも入ってもらうよ。
河野さんの仕事を覚えてね。」
課長にこんなことを言われた。
初めて広報の仕事に関われると思い、嬉しくなった。
心の中でガッツポーズをするくらいには浮かれていたと思う。
しかし、近くにいた河野さんは露骨にイライラしている様子だった。
いつもは明るくて、優しくて、いつも笑顔な河野さんの初めて見る顔に戸惑いを隠せなかった。
最初はイライラしている理由が分からなかったが、後々に分かることとなる。
水瀬さんと一緒に仕事ができる。
ずっと願っていたことが実現する。
水瀬さんと対面で会う前まではそう思っていたが、俺と河野さん、水瀬さんと3人で顔を合わせた時、全てに納得した。
河野さんも水瀬さんのことが好きなんだ。
一目瞭然な程に態度に出ていた。
もしかして2人で仕事をしたかったからイライラしていた、と考えれば納得がいく。
ミーティング終わりに水瀬さんと2人きりで話していた河野さん。
話の内容は聞こえなかったが、水瀬さんのことが好きなんだろうなと分かる顔をしていた。
何というか、切なさで目が潤んでいたように思う。
その表情が頭から離れないまま会議室を出ると河野さんにこんなことを言われた。
「鶴房くんも水瀬さんのことが好きやろ。
鶴房くんにも俺にも望みはない。
あいつ、結婚してんねん。」
水瀬さんが結婚していることは知らなかった。
しかし、俺は"良かった"と思ってる。
一切の望みがなくて良かったと。
少しだけ希望を残された方が辛いから。
片思いが完全に終わった俺は仕事だけに集中しようと思えた。
俺って本当に単純だな、とつくづく思う。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 185人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
プルメリア(プロフ) - ささん» 2作とも読んで頂きありがとうございます！ 嬉しいです！ こちらの作品優先にはなりますが、どちらも更新お待ちいただければ幸いです！ (11月7日 20時) (
レス) id: f9f8715533 (このIDを非表示/違反報告)
さ(プロフ) - 二つの作品一気に見ました☺️どちらもとても面白くてこれからも楽しみにしてます🎶 (11月7日 17時) (レス) @page19 id: 3db943dc83 (このIDを非表示/違反報告)
プルメリア(プロフ) - 3yjxQciJV7r5zPBさん» コメントありがとうございます！ そう言っていただけて大変嬉しいです！ 続きをお待ち頂ければ幸いです！ (11月5日 23時) (レス) id: f9f8715533 (このIDを非表示/違反報告)
3yjxQciJV7r5zPB(プロフ) - すごく面白いです！続きが気になります！ (11月5日 23時) (レス) id: de847680fb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：プルメリア | 作成日時：2023年11月1日 11時
