死霊捜査官【d!】 (ページ8)

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．memento mori　※ ページ8

時計の針が数回ぐるりと回って、すっかりと黒が空を染め上げた。路地には該当がぽつりぽつりと白熱灯がぼんやりと暗闇を照らし道しるべとなっている。時々白熱灯に集る虫がばちっと音を立てている以外何一つ音を感じない。

「師匠～こんな作戦で本当にいいんですか？」
「あぁ、君しか頼む相手はいないんだ。うまくやってくれよ。」

　人気のない山の中で私は地に横たわっている。そしてその傍らに立つのはあの瓶底眼鏡の奥にマンダリンオレンジの瞳を携えた彼だ。元より背の高い彼に見下ろされているとどうもまな板の上の鯉の気分になる。

「じゃ、遠慮なく。」

　にんまりと弧を描いたその口は欲を隠さず、その片手に持ったモノ(・・)を構える。私は次に来る感覚に備え、眼を瞑りすべてを彼に委ねることにした。

「師匠、ちゃんと戻ってきてくださいよ。」
「あぁ、へまはしないよ。」

　ダンっという衝撃音と共に激しい痛みが私を襲う。痛み、それはすぐさま赤へと変わって流れ出ていく。流石に一度で切り離すことが出来なかったようで彼は「すみません」と言いながらもう一度、もう一度とその手に持った斧を振り下ろした。やがて完全に私の首が親元から巣立つことが出来た時、私の身体は既にこと切れていた。

　 ■

「すみません、すみません、お助けを！！」

　彼誰時、営業時間外だというのに駆け込んできたその男の声は辺りに響き渡る。何だ、何だと職員が出てきてみればその背中にあるモノを見てうわぁ…と目を覆った。その中の一人が呼んできたのだろうか、この精神病院の〈院長先生〉が中から出てきてその男と対峙する。

「どうされたのですか？このような時間に。」
「し、師匠が…」

　男は背負っていたそれを降ろす。師匠と言われたその亡骸は例の首無心中やアランの如く首が無かった。あふれ出ていたその血は長い時間の末に凝固したようで首元で固まり、赤黒く変色している。

「これはまた…貴方たちは先日此方へいらした旅人さんですね。」
「そうです。目覚めた時に師匠がこんな事になってて…」
「恐れないでください。此れは神の御心なのです。ただ、このままでは彼女は救われません。私の方から祝福をさせて頂けますでしょうか。」

　男はこくこくと首を縦に振り、涙目で院長先生を見つめた。それはまるで救いを求める敬虔な信徒のように、あるいは罪びとのように。それに応えるべく奇跡の言葉が唱えられた。

「主が貴方を祝福し、守られるように。」