死霊捜査官【d!】 (ページ5)

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．黒の塵ページ5

町中をぶらぶらと歩き、取り敢えず目に付いた喫茶店へと入る。決してスコーンの焼ける匂いに惹かれた訳では無い、決して。

紫煙を燻らせながらマンダリンの瞳はわいわいとしている町の方を捉えている。いつもの癖で机に煙草を押し付けないか不安で私は灰皿をそっと彼の方へと近寄らせると要らぬ心配だと言わんばかりの視線をこちらに向けた。

「しっかし、町は何処にでもありそうな長閑な雰囲気ですよね〜」
「そうだな。」

珈琲を一口含めば爽やかな酸味が口内に広がる。ぽやぽやとしていた脳がスッキリと目覚め、心地の良さを感じていると路地の方から長閑な空間を引き裂くような悲鳴が聞こえてくる。

「な、なんですか？」
「向こうの方からだ、行ってみよう。」

店主に支払いを済ませて店を出るとその目的の場所は直ぐに人集りが出来ていた。どうやら人々の響めきはポジティブなものでは無いようで、哀れみの声がよく聞こえる辺り殺人、或いは例の首無心中であるとみれるだろう。

「皆様、どうなさいましたか？」

鈴の音だ。カランコロンと響き渡るその声は辺りの人々を震わせた。次第に院長先生だ、という波紋が包んで群衆はその道をモーセのように開いていく。そして見えてきたのは座り込んで泣く女性と、その傍らにある首が無い一人の男の遺体であった。

「アランの奴が…持ってかれたんです。」
「院長先生、お助け下さい。」

人々は〈院長先生〉と呼ばれる人物に懇願し始めた。彼らの願いに答えるべく彼女は遺体の方へと近寄り、そっと手をかざして祈った。

「主が貴方を祝福し、守られるように。」

彼女の言葉に呼応するかのように、その身体は黒い塵になって消え去った。それを見た群衆は歓声を上げて院長先生！と讃える言葉を皆口々に述べている。

「ミレーナ、もう大丈夫ですから。アランの魂は救わました。」
「院長先生、私は？私はどうして…」
「残念ですが、アランの信仰はアランを救いました。さぁ、行きなさい。」

そう言い残すと院長先生はまた何処かへと去っていった。一通りのパフォーマンスが終わると群衆は皆ちりじりになってしまい、先程までの凄惨な事件など無かったかのように町が再び起動した。

「いや〜なんか凄かったなぁ…って師匠？」

「ミレーナ、だったな。少し聞きたいことがある。」

私は未だその場で固まったまま動くことが出来ずにいたその少女に声をかける。彼女は此方を見て少し驚いた表情を浮かべるとそのまま首を縦に振った。