死霊捜査官【d!】 (ページ35)

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．ミルクページ35

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　久々に自宅に戻ってきたような感覚だが、実際には東ルディーヨへと旅立ってたった数日しか経過していない。郵便受けには新聞とチラシぐらいしか入っておらず、本来の探偵業は閑古鳥が鳴く処か閑古鳥にすら見捨てられている。全く、つまらないものだ。

　チーノは早々と自室(という名の屋根裏部屋だ、奴は勝手に住み着いている。)へと戻って気絶する様に寝てしまった。部屋に入ったなぁと思っていたらドンっという鈍い音が上から響いたので何かと思えばベッドまであと一歩の所で倒れ伏していた。よくある事だ。彼を抱えてベッドに放り投げ、寝る前にホットミルクでも飲もうかとキッチンへと向かう。遠出していたというのに牛乳があるのだろうか、という疑問は不要だ。何故なら私は、遠出をしようとも食材に配慮をする事はない。もし万が一遅い期間になったとしても親愛なる隣人が適当に処分してくれるだろう。

　冷蔵庫を除けば当たり前のように牛乳が鎮座している。匂いは問題ない。鍋に牛乳を注いで火にかけて、適当に煮立ったら出来上がりの代物だ。非常に簡単簡単楽ちん。さて、牛乳が温まるまでレコードでも流そうと振り返った瞬間、ぐらりと視界が揺れる。世界が斜めに溶けていくようだ。

＿＿＿＿お前が██か！話には聞いていたけど譯亥､匁勸騾壹↑螂ｴ繧?↑。俺？俺か。俺は、████。あいつの、蜷梧悄繧?〒。よろしくな、██！

一体誰の声だろうか、私にはわからない。

　どうにも疲れている時は記憶の濁流に攫われてしまう。何度も何度も死んでしまって、色々な事を忘れてしまった癖に、ふとした瞬間にこんな大した事のない記憶が浮かんでは消えていく。泡のようなそれらが、いちいち杞憂する程のものではないと気づくに何年かかったのだろうか。今の私に必要なのは、今の私だけだ。

　背後でぐつぐつと牛乳が私の事を呼んでいる。すぅ、はぁと息を整えて鍋を火から外してコップに注ぐ。軽く蜂蜜とシナモンを加えると疲れた身体がほぐれるような気がする。

「(……久々に死んだ気がする。バランスを図るのが難しい。しばらくは、休みたいがそうもいかなさそうだな。)」

　適当に選んだレコード盤はオラトリオ。ソロモン王の音楽だった。宗教音楽は、何故か惹かれるものがある。もしかしたら、昔から好んでいたのかもしれない。よくわからないが、今兎に角分かる事は、きっと音楽を聴きながら確実に寝るという事だ。