死霊捜査官【d!】 (ページ32)

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file2.巡礼者ページ32

小さな世界

　先程まで様々な情景を映し出していたそれは、すっかりと黒に満たされてしまった。どうにも、小さな明かりが抜ける小道を用意する程の余裕がないらしい。

　如何やら目的地へと到着したようで、辺りには、キィ――という錆びた鉄音が響き渡る。重力に引っ張られ、暫くすると我々を運んでいた箱舟の戸が開く。それと同時に、周囲から何とも怠そうな足音がいくつか聞こえた。

「起きろ、チーノ。」
「んぅ～～」
「終点だ。」

　同行者、もとい我が弟子であるチーノは、先の事件に疲れ果てたのか、帰りの列車の中で始終眠りこけていた。彼がこんなにも油断しているのは珍しいようにも見える。特別ずっといる訳ではない、彼との出会いは3年程前だったように思うが、未だに隙の無い男だ。私は、彼の好きなものを知らない。いや、人殺しが趣味である事は知っているが、それ以外の所は全くだ。私など、適度に殺しがいのあるサンドバックと見なしているのだろうが、なぜ彼は、私の事を師と仰いでいるのかは不明だ。まぁ、問題なく過ごせているからそこまで気にはしていない。

　■

　closedをかけようとするサンドイッチ屋に駆け込んで残っていたミックスサンドを購入する。ついでに自分とチーノの分も。本当は、このまま酒場に入ってぐだぐだするのも悪くはないが、そうすると死んだ眼の書記官が自宅に来て説教を食らう未来が見える。それはいや。

「師匠、秘跡庁に行くのは明日で良くないですか？」
「先延ばしにすると行く気が失せる。土産も適当に買ったんだし、このまま行く」
「僕あそこ嫌いなんですけど！」
「なら、ついてこなくていいけれど。」
「あぁそういって、置いてかないで下さいよ！」

　買ったサンドイッチを渡せばモグモグと食べながら彼はついてくる。別に子どもじゃないのだから先に帰ればいいのに。なんだかんだ言ってついてくるのが奴だ。ただ、彼が何故あんなにもあの場所を嫌うのかは知らない。一回だけ理由を聞いたような気がするが、兎に角嫌なんだと言われただけだったな。