死霊捜査官【d!】 (ページ29)

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．雨音ページ29

同行者が寝てしまい、暇を弄ぶ。

　車内販売の珈琲は、味はそこまで良くないが熱さだけは格別だ。新聞も一緒に買った。興味はないが、政治的な事はいつでも丁度良いゴシップだ。眠気覚ましにもってこいである。『首無し心中事件、被害拡大か』、『東部教区長行方不明』『東ルディーヨの精神病院の奇跡』……聞きなれた話題ばかりだ、つまらない。その中に一つ、興味が惹かれる記事があった。

▮西部教会、謀反か？
＿＿西部教区内の教会にて、近頃行き過ぎた恩寵の執行が見られる。教区長のコネシマは、彼らの行動について対応をしているとの事だが、彼らの思惑は不明。死霊派カルトと結びついた謀反の可能性も捨てきれない。

「(……コネシマが謀反ねぇ。)」

　そんな事はあり得ないだろう。あのコネシマが、つまらない事に現を抜かす事はない筈だ。どうせ、西部をよく思わない記者連中の偏向報道にすぎない。が、なぜか気になってしまう。いつもの探偵業なら、すぐに現地に行ってもよいのだが、まぁ今はグルッペンの犬だ。見なかった事にしよう。そっと新聞を閉じて、窓の外を眺める。気が付くと、首都近郊に近づいているようだった。住宅がポツリポツリだが増えている。畑を耕す者たち、傍らの道で走り回る子どもたち、洗濯物を取り込む者たち………穏やかな人々の生活が一瞬の内に過ぎ去っていく。
　

　そんな姿を見ていると、いつかの記憶が脳裏にふと呼び起こされる。今までよりも鮮明な映像だ。そこにいたのは、ウツだった。在りし日の、今は亡き銘柄を携えた若き彼だ。彼は、一切私の方を見ていなかった。雨が降っている、降られている。彼は、傘をささずに何かを見つめている。そして、雨に流されそうな声で、誰にでもない言葉を呟いた。

＿＿＿俺らは所詮化け物なんや、気をつけないと……

　その先は、酷い雨の音で聴きとる事が出来なかった。何を言いたいのかは分からない。ただ、彼はいつになく何かを恐れている。地に溶けたネイビーブルーは揺ら揺らと居場所を持たないからだ。あぁ、聞き取れないのかと思ったらトンネルだ、トンネルに入っていたのだ。周りに音が響いて仕方がない。そのままぼーっと何も映さない窓をじっと見つめる。

　そうですね、ウツ様。私たちは所詮、そうなのかもしれませんね。でも、私の目に映るあなたは、少なくとも人間だった。人間だったのですよ。