死霊捜査官【d!】 (ページ19)

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．人知を超えるページ19

生命力満ち満ちた赤に、鬱々としたネイビーブルーが混じ入る。やがて、赤を飲み込んでネイビーブルーは人の姿を成した。一歩、また一歩と歩行を始めたそれは、周囲に散らばる肉塊を一瞥すると生まれたての踵で踏み潰した。男は、それが探し求めいてた例の人物であることに気づくと、構えていた拳銃をそっと降ろす。

「ウ、ウツーーー！！！生きてたんか？」
「せやで、おそなったな。」
「てっきり死んだのかと……」
「死んでへんわ、勝手に殺すな。」

　歓喜のあまり飛びついてきた男をウツは容赦なく殴る。その勢いにより、男は地面と―それも鮮やかな赤の染みついたものに、濃厚な口づけを交わす羽目になった。「誰が男と抱きつきたいねん」と不満を零しているウツは、どこからどう見ても平常運転である。男は、地面と最悪な邂逅を果たしたことに非常に不服であった、今にもネイビーブルーを撃ち殺しかねない程であった。しかし、男は自分の内から湧き上がるものに蓋を被せ、得意の笑顔をぺたりと貼りつける。なぜなら、男が約束(・・)を破った時の師匠は、彼にとっての唯一の弱点であるからだ。
　何事もなかったかのように男は立ち上がる。そして、胸元から愛用の煙草を取り出し、火をつけているウツへと声をかけた。

「しかし、大分ヤバい所から出てきましたね。」
「俺もこんなけったいな登場するとは思わんかったで。」
「何ですか、あいつに喰われてたとか？」
「あー多分な、あいつの腹ン中に結果的に収まってたみたいやな。」

　えぐ…と男は率直な感想を声に出す。男自身も、人の事を言えないような事を色々とやっているが、人の業をはるかに超えた現象に慄く他なかった。死霊の巣となった信者も、そこに取り込まれて尚生還したウツも、そして彼を助ける為に自ら進んで死んだ師匠も、皆化け物ではないかと。そう思わずにいられなかったのだ。

「……師匠もそこにいました？」
「あぁ、Aちゃんに助けられたんやわ。」
「そうなると、早く戻さないといけませんね～」

　男は、肩から下げていた革製の頑丈な鞄を摑む。そしてその中を開こうとした瞬間、ウツは「まて、チーノ」と彼の手を止めた。

「Aちゃんには悪いけど…それ、後回しで。」
「えっ？…うわぁっ！！」

　沈黙を貫いていた漆黒が、彼らの足元から立ち上る。そして、散り散りになった破片を集め、絶え間なく荒れる嵐となった。その様を見てニヤリとウツは口角を上げた。

「正体現したね。」