死霊捜査官【d!】 (ページ17)

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．血の中のお前を※ ページ17

＿＿＿俺らは所詮███なんや、気をつけないと……

　ふと頭に誰かの声が響く。何時のものだろうか？長く生きると失う記憶も多いものだ。時折、この様にふと記憶の断片が蘇ることがある。それが私に何の意味をもたらすのかは不明だ。今は、それ以上考える余地はない。彼を無事に地上へと送り届けることだけに集中しなければ。

「いい、ウツ？一瞬で済ませるんだ。」
「なるべく痛くないようにするわ。」
「それは当たり前だ。とにかく、頼んだよ。」
　
　迫り来る黒い塊に向かって歩を進める。物陰に隠れたウツが準備万端なのを視界に捉えると、そのまま私は自らの身を委ねた。求めていたと言わんばかりに黒い塊は無い口を大きく広げ私を取り込む。歯など見えないのに私の身は鋭い犬歯で貫かれ、そしてちぎれた腕は臼歯ですり潰されると奥へと飲み込まれて行った。視界が鮮血に染まる。痛みに呻く余暇なく次から次に四肢がもぎ取られていく感覚が訪れる。私の身体が無くなっていく。身体が漆黒に染まっていく。痛い、思ったよりも強い力だ。正直侮っていたが、ほんとうにこのままでは無駄死にしてしまう。

「うっ、ぐぅ……ウツ！！！はやくしろ！！」
「仰せのままに＿＿＿」

〈静まれ、私こそが神であると知れ。〉

　彼は言葉唱えると辺りから音が消え失せた。凪の湖面のようである。同時に、私を蝕んでいたあらゆる痛みが消え失せた。どうしてこんなにも心地よいのだろうか。脳が微温湯に沈んでいくような心地に安堵を得る。いや、そんなはずは無い。安心してはいけない。これから私に降りかかるものは災いだ。でも、言葉がでない、考えられない。分からない。頭が、うごかない。あた、ま…

「ごめんなぁ、Aちゃん。」

辺りに轟音が響き渡る。
黒い塊に穴が空く。

　先程まで咀嚼していたはずの獲物はその口の中に無く、あるのはただ血溜まりのみである。ウツは1歩、また1歩と恐る恐る近づけば彼女の目論み通りになったことを確認する。ほっと安堵する彼の足元に散らばる肉塊は、かつての姿を思い起こすことが出来ない。ただ、その中でも特段美しい形で残った目玉が彼をじろりと捉えていた。

「……ほんま、バケモンやで。」

　そっと目を背け、彼は早足で出口へと向かった。誰が、血の中のお前を見て生きよと言うことができるのだろうか。何故、そのように生きねばならないのか？紫煙の中に紛れた嘆きは誰にも聴かれないものだった。