死霊捜査官【d!】 (ページ14)

今日:16 hit、昨日:0 hit、合計:6,332 hit

．紫煙にゆらぐページ14

「Aちゃ〜ん、仮にそれで行くとして……ホンマにええん？」
「問題ない。」
「いやいや大ありやって。」

ウツは徐に胸元から愛用の煙草を取りだした。箱の底をトンッと叩いて1本取り出すといつものように火をつけて煙をふぅと零す。辺りには鼻腔をくすぐる独特の香りがふわりと充満した。悠長に紫煙を燻らせているが、これは彼なりのルーティンであるのだろう。しかし、どうしてこの世界で吸えるのかは分からない。実体ではないはずだが、煙草も彼の1部何だろうか？

そんな事を呑気に考えていれば、急に視界が白くなる。煙を吹っ掛けられたのだと瞬時に理解して怒りがこみ上げる。だが、あまりの香りの濃さに息をするだけでむせ込んでしまった。

「げほっ、げほっ……何、嫌がらせ？」
「Aちゃん、簡単に言うてるけどものごっつきついんやで？Aちゃんは良くても俺は不服やねん。」
「不要な心配だ。それに……君の恩寵は、人間理解度が高ければ高い程より深く干渉出来るだろう？」
「それは確かにそうやねんけどな。うーん、まぁ言うても聞かへんのは分かっとるけど。あんま無茶はせんで欲しいのよ。」

なんだ、そんなことかと呆気に取られる。つくづく彼も甘いものだ。自分だって余裕がない状況のはずなのに他者を気にする。彼の良い所だ、でもそれはある意味命取りとなっているかもしれない。私も考え無しではない、そこを信頼して欲しいものだが。

「その優しさは充分受け取ったよ。でも、私は君の実力を信じているんだ。そう不安に思わないで欲しい。」
「まぁ、Aちゃんにそう言って貰えるなら光栄やわ。」

彼は煙をふぅと長めに吐く。そして、まだ余裕のあるそれをぽとりと落としてぐりぐりと踏み付けた。どうやら彼のルーティンは終わったようだ。それを見届けてから、行こうと声をかければ呑気な返事が帰ってくる。無事にうまく行くといいのだが。揺れる地に立ちて、私はこの時ばかり神の恩寵を信じた。

「はぁ、ゾムにしばかれてまうなぁ。」

「？何か言ったか。」
「いや、何も。」