死霊捜査官【d!】 (ページ2)

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．黒の懇願ページ2

コツンコツンと靴音を鳴らして無駄に装飾が施された廊下を歩く。しかし辺り一色黒、黒、黒。なんの恨みあってか〈死〉が好む色合いに包まれた世界である。

「無駄に金がかかっている事だ。」
「本当ですね。…相変わらず嫌な空気やな。ここは。」
「別に着いてこなくても良かったんだぞ。」
「だって…」

　その言葉を遮るかのように目の前に現れた赤の男。几帳面に七三分けにされたその黒髪は午後だと言うのに少しも乱れてはいない。彼はぺこりとお辞儀をすると少し口元を弛めた。

「Aさん、お待ちしておりました。」
「やぁトントン、久しいね。詳しい話を聞かせてもらおうじゃないか。」
「急ですまんな。中に奴が待っとるから」

　そう言って勧められた先にあるのは漆黒の扉。相変わらず威圧的で気分が悪くなる。マンダリンの方をちらりと見てやればあからさまに機嫌が悪い。彼と来てしまったのは失敗だったようだな。

　がちゃりとその扉を開ければ目に飛び込む例の金。偉そうに秘跡庁長官の座席に座っている所を見ると相変わらずのようである。

「よく来たな、A。」
「グルッペン、一体なんだって言うんだ。こんなのを寄越して。」

　先日送られてきた封筒を胸ポケットから取り出して彼の前に見せつける。それを視野に入れるや否や彼はあーはっはっはっと大笑いをした。

「いや、すまない。確かにこれだけでは説明が足りんかったな。」

　もう少し内容が書かれていると思っていたが、と付け加えて彼は事の経緯を話し始めた。

「我々の本来の役割は秘跡を執り行うことだ。そしてその為にこの国を駆け回らなければならない。」
「そして秘跡庁は選ばれたもの達のみ、巷の死霊騒ぎに手を焼いてられないってか…」

　その通り、と彼はパチンと指を鳴らして私の前に〈恩寵〉を見せつける。何も無い空中に映し出された写真は一見するとただのホテルであり、何のことを意味しているのかさっぱり検討もつかない。

「この建物は、東ルディーヨにある精神病院でな。例の首無心中の犠牲者と関連がある。それで、秘跡庁から一人調査に向かわせたのだが…」
「まさか、連絡がつかないのか？」
「あぁ。あいつに限ってそんな事は考えにくいのだが。」

　グルッペンはレンズの奥に隠したその黄金を細める。その歪んだ表情から察せられるにあまり芳しくないのであろう。暫し押し黙った彼は、躊躇いを抱きながら再び口を開いた。

「我々に協力してくれるか？A･オリエンス」