玖. 涙と強さ ページ9
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泣き疲れて寝てしまったその子を見て、Aはわたわたと焦り始める。
大丈夫?どうしちゃったの?疲れたのかな?
気分悪い?どうしよう。
聞こえてなかったのかな、炭治郎はもう一度、優しくAの名を呼ぶ。
するとAは、目にたくさんの涙粒を溜め、此方を振り返った。
「た、炭治郎!この子は何も悪くないの!
本当よ……この子は何も悪くないの。悪いのはこの町で悪さしてる、この子の両親を食った鬼なんだから!」
Aの、ぼろぼろ溢れ出る涙を拭ってあげる。
この子の両親が死んだ日から、毎日1人ずつ、この町ではだれかが死んでいるらしい。
両親が死んだのにも関わらず生き残ったこの子が、化け物を呼んだ、こいつのせいだと虐められていた。
山へ逃げてきた泣いているその子を心配して、Aと一緒に町まで降りてきたらしい。
それで、さっきの騒動だ。
蹴られ、殴られ、罵倒され。
触るのも穢らわしいと、箒で叩かれ、血が流れ。
でも、大丈夫。私は人より丈夫だから。
大丈夫だよ、もう少しの辛抱よ。
もう少しでね、誰よりも強い人が、優しい人が、助けに来てくれるからね。そんな気がするの。
「……寝てるだけか。よかったぁ」
子供の治療を終え、安心したように微笑むA。
自分だって怪我をして、髪は乱れ、血だって流れているのに。
それでも、傷ついた人を助ける彼女は、人よりも暖かい匂いがした。
「助けてくれてありがとう、炭治郎!」
「………………俺は」
俺は、何もしていないじゃないか。
君は、本当に強い人だ。
不思議そうな顔をする彼女の頭を、慣れた手つきで撫でる炭治郎。
付いていた土を落とし、乱れた髪を直し、持ち前の長男力で丁寧に結い上げる。
すごいすごいと喜ぶ彼女は、とても愛らしくて。
ありがとうと言うその笑顔が、とても暖かい。
不自然に早くなる鼓動に疑問を持つ。
何かに、毒されたような、そんな気分だった。
……毒?
そんな訳ない、彼女のもつ血鬼術は治癒の類だ。
ほわほわと温まる胸に手を置き、目覚めた子供を家へと送り届ける。
炭治郎と、その子と、Aと。
3人で、手を繋いで家へと向かう。
「……何だか、家族みたいね!」
笑い声と、悲しい匂いが、混ざったような気がした。
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くずを - 好きです!次の更新待ってます! (2020年1月11日 20時) (レス) id: f3d3ee67c0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちよこ | 作成日時:2019年8月29日 23時