Kissを止めないで【ars S.O】 (ページ9)

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9.歯が立たないページ9

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地下鉄は通勤帰りの客でそれなりに混んでいた。

満員とまではいかないけど、足を踏ん張ってないと、隣の大野くんとは腕が触れてしまう距離。

乗り換えまでの30分がこんなにも長く感じたことはなかった。

暑くもないのに手汗が酷くて、つり革を掴む手が滑った。

大野くんはというと、私の緊張なんてまるで気づかないみたいに、ボーっと吊り広告を眺めてた。

ほんと、なに考えてんだか…

「Aさんさ」

ひぃ！

「なぁにぃ？」

ヤバイ…声カスカス。

「ばあちゃんかよ(笑)」

「うっさい！ガキ」

「はいはい(笑)でさ」

「うん」

「なんで俺のこと見て驚いたの」

「え？」

「地下鉄の入口で」

「あー、だって先帰ったのにいたからさ…」

「先に帰ったんじゃないよ」

「ん？」

「待ってた」

「…」

「Aさんが来るの、待ってた」

大野くんはそう言うと、顔を横に向けて私の顔をジッと見た。

何だこれは。

なんて言えばいいの、こういう時。

高校、大学とそれなりに恋愛してきたはずなのに、何一つ役に立たない。

18歳のアイドルにまるで歯が立たない。

結局気の利いた答えが見つからないまま、乗り換え駅に到着し、

私たちは再び同じホームへと向かった。

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乗り換え駅から大野くんの最寄駅までは10分ほどの距離で、適当にテレビの話題でも振っておけば到着するだろうと考えた。

「大野くんってテレビとか見るの？」

「あんま見ないかなぁ…」

「あ、もしかして出る方？」

「いや、友だちは結構出てるけど俺は…」

「そっか…。売れたい、とか思う？」

「あんまり」

「…」

「…」

って、おおーい！(エガちゃん風に)

話終わっちゃったじゃん！

その時だ。

「あれ？もしかしてAじゃない？」

背後で男の人の声がした。