Kissを止めないで【ars S.O】 (ページ26)

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26.さとしページ26

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私と大野くんが気持ちを通わせたあの日から、私たちは色々と話すようになった。

正確には、私が大野くんに質問することの方が多かった。

口下手な大野くんは、自らペラペラと自分のことを話すような人ではなかったからだ。

その日のお昼休みも、近くの公園のベンチに座って、コンビニのパンをかじりながら彼についてのあれこれを聞いていた。

大野くんの身長は166cm。

本人は小柄なことをなにげに気にしていて、毎日牛乳を飲んでいるらしい。(かわいい)

ジャニーズに入ったのは、お母さんが履歴書を送ったから。

オーディションの時、窓の外のお母さんに手を振っていたら事務所の人に怒られたらしく、当然落ちたと思ったら、なぜか受かっていたらしい。

京都では毎日舞台に立っていて、1日4ステージこなしたこともあったとか。

こんな細い体のどこにそんな体力があるのだろう…。

うふふと笑ったり、懐かしそうに目を細めたりしながら、いろいろなことを話してくれた大野くんだったけど、

京都時代のことを思い出すのは、ちょっと辛そうだった。

1日に何度もフライングのために吊るされた時は、ワイヤーにつながれた状態で涙したこともあったという。

まだ中学を出たばかりの男の子が、たった一人、見知らぬ土地でどんな気持ちで過ごしたのだろう。

ふいに抱きしめたくなった。

だけど、ここは会社の近く。

流石に無理だ。

でも…

「ねぇ大野くん？」

「んー？」

「頑張ったね」

「ん…まぁね」

「えらいえらい」

お姉さんぶって頭をポンポンと撫でてみる。

大野くんは黙って頭を撫でられていた。

けど、そのうち眠くなったのか、私の肩にコトンと頭をのせて

「ちょっと…こうさせて」

と目をつぶってしまった。

大野くんに肩を組むみたいな格好になってしまい、手のやり場に困る。

そのまま宙に浮かせていると、大野くんが

「撫でてよ」

と甘えた声で言った。

後ろからではポンポンするのは難しい。

恐る恐る髪に指を通すと、シャンプーがふわりと香った。

目をつぶりながら大野くんが言う。

「Aさん？」

「なに？」

「智って、呼んでみて」

「え、やっ、だって会社…」

「会社じゃなくて。2人ん時だけ」

ドキドキしながら

「さ、とし…」

と呼んでみる。

そしたら大野くんは薄眼を開け、私の肩に顎をのせるみたいにしながら

「なに？A…」

ってクスクスと笑った。