Kissを止めないで【ars S.O】 (ページ23)

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23.話したいことページ23

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コンサートが終わり、駅に向かっていると、ポケットの中の携帯が鳴った。

取り出してみると、ディスプレイには

【オオノクン】

と表示されていた。

会社で自己紹介した時、交換したんだっけ。

かかってくることなんてないと思ってた…。

しばらく眺めた後、深呼吸して通話ボタンを押した。

「はい…」

『Aさん、今どこ』

彼はあれ以来、私を名前で呼んだ。

どういう意図でそうしているのかはわからなかったけれど“親しみを込めて”なのだろうと、そのままにしていた。

「あー水道橋。すんごい混んでる」

『どっか居て。今、行く』

「ダメだって！こんなとこ来ちゃ」

思ったより大声になってしまい、周りの人からギロッと睨まれた。

あわてて、通話口を抑え、可能な限りの小声で話す。

「あなたジュニアなんだから、囲まれでもしたらどーすんの」

『そんなんないって(笑)』

「とにかく！私、1人で帰るから。じゃあね」

そう言って、電話を切ろうとしたら、携帯の向こうで

『待って！』

と大野くんの叫ぶ声が聞こえた。

もう1度、携帯を耳にあてる。

『話したいことあんの』

「…」

『会いたい…』

喉の奥が締まる感じがして、ブワッと涙がこみあげた。

「ごめん。やっぱ帰る」

電話を切った後、涙が一筋こぼれた。

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自宅の最寄り駅に着き、自動改札機に切符を入れる。

いつもの道を帰ろうと顔を上げると、いるはずのない人がそこにいた。

「なんでいるの…？」

改札脇の柱にもたれるようにして立っていた大野くんが、こちらに向かって歩いてくる。

「タクった。お陰できょうのギャラ、すっ飛んだ(笑)」

「でも、どうして…」

「話したいことあるって言ったじゃん」

「そんなのいつだってできるのに(笑)」

そうおどけた感じで言ったら、大野くんは

「今日じゃなきゃっ…ダメなんだよ」

と、語気を強めた。

「とにかく行くよ」

大野くんが私の手を握って歩き出す。

「えっ、手、手っ、繋いで…」

「繋いでるよ？悪ぃか！！」

大野くんに引っ張られるようにして、夜の街に飛び出した。