Kissを止めないで【ars S.O】 (ページ20)

今日:8 hit、昨日:7 hit、合計:89,115 hit

20.寂しい？ページ20

・

大野くんが会社に出てきたのはそれから2日後のことだった。

定時を少し回ってやって来た大野くんが、社長のデスクにまっすぐに向かい、ご迷惑かけました、と頭を下げる。

それが終わると今度は、私のところに来て何か言いたげにしているから「とりあえず座りなよ」と彼の椅子を引いて、席に座らせた。

「具合もういいの？」

「すっかり。色々ありがとう……ごっ、ざいました」

とってつけたような「ございました」に吹き出したら、大野くんもつられてあははと笑った。

どうしよう…楽しい。

大野くんが隣にいるだけで、こんなにもワクワクするなんて。

世界がワントーン明るく見える。

だけど、喜んだのもつかの間、次に大野くんが口にしたのは残念なお知らせだった。

「あ…俺、来週いっぱい来れない」

「そうなんだ？どしたの」

本当は死ぬほどがっかりしてるのに、年上のプライドが素直になるのを邪魔する。

だから、精一杯強がって、それがどうしたの？って顔をした…

つもりだったのに…

どうやら大野くんにはバレバレだったみたい。

顔を下から覗き込むようにして

「俺がいないの、そんなに寂しい？(笑)」

なんて、聞かれてしまった。

下がった眉毛で私を見つめる。

瞬間、胸の奥がきゅううううっと締め付けられて、気持ちが溢れそうになった。

けど、ここは職場。

必死に耐えたら、あまりにも可愛げのない言葉が口を衝いて出た。

「っ、はあっ？なんで、私が？」

「目が死んでんもん」

「あっ、あんたに言われたくないんだけど！」

狼狽した様子の私を、はいはいと受け流しながら大野くんが続ける。

「週末、先輩のコンサートに呼ばれちゃって。バックで踊んなきゃなんないの」

「へー…」

「見に来てよ」

「え？」

「これチケット」

私にチケットを握らせながら

「俺の踊るとこ、Aさんに見て欲しい」

と八重歯を見せて笑う。

あれ…

またサラっと名前呼んだ。

声のトーンが甘くない？

マシュマロみたいに甘くない？

「んまあ、時間あったらね！」

強がって見せたけど、きっと顔は真っ赤。

そしたら大野くんが聞こえるか聞こえないかの声でボソッと言った。

「ふふっ、かわいい」

か、かわいい？

かわいい、つった？

私のこと？

アワアワしていると、斜め前の席の矢本くんが

「あー！しゃちょー！この2人なんかイチャイチャしてます！」

って叫ぶから、思いっきり睨みつけた。