Kissを止めないで【ars S.O】 (ページ15)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:89,102 hit

15.ファンページ15

・

大野くんと2人、来た道を戻る。

大野くんはわかりやすくムスッとしていた。

「なんでそんな顔してんの(笑)」

「だって、あいつ、Aさんにだけ、またおいでって」

「あー(笑)大野くんもおいでって言われたかった？」

「ちっ、ちっげーし」

「社交辞令に決まってんじゃない。大野くん、わかってないなぁ」

「わかってないの、Aさんの方かもよ…」

そう言って、まっすぐに私を見つめる。

まただ。

この子、18のくせに時々、ものすごく色っぽい顔をする。

その度に私は心臓を鷲掴みされたみたいな気持ちになるんだ。

「はいはい、早く帰って仕事サクッと終わらせちゃお」

笑いながら大野くんの背中をパンッと叩いた時、

「智くん…？」

ってキーの高い声が聞こえた。

振り向くと、若い女の子が2人、小さく悲鳴をあげた。

「キャー！やっぱり本物だ！京都で舞台見ました」

「握手してもらって良いですか？」

「あー…ああ、うん」

そうだった。

この子、アイドルなんだ。

つい、さっきまでじゃれあっていた男の子を急に遠くに感じた。

ファンの子たちを誤解させないよう、大野くんからそっと離れる。

そのまま急ぎ足で会社に向かった。

5分くらい歩いただろうか。

突然後ろから腕を掴まれた。

「待ってよ」

「え？」

「なんで先行っちゃうの」

「だって、ファンの子…」

「あーうん…それはそうなんだけど」

「誤解されても困るし。ほらアイドルにつきまとう痛いおばさんとか思われてもさ」

「…マジでそんな風に思ってんの？」

なぜ私はこんなにも意地悪なんだろう。

大野くんは悪くない。

悪くないのに。

「だってアイドルのファンとか怖いじゃん」

「…」

「カミソリとか送られても嫌だし。あ、今時カミソリはないか(笑)」

「…」

止まらない。

こんなこと言いたくないのに。

止まらないの。

一体どうしちゃったんだろう、私。

「ごめん…意地悪だね」

「…」

「先に帰ってるね。ゆっくり帰っておいで」

きっときょうは一緒に帰れない。

ううん、きょうだけじゃない。

きっと大野くんに嫌われてしまった。

もうあんな風に自転車の後ろに乗ったりすることもないだろう。

なんだか無性に泣きたくなった。

この時の私は気づいていなかった。

傷つくのが嫌で、彼を拒絶していたのだということに。