Kissを止めないで【ars S.O】 (ページ12)

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12.タバコの香りページ12

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大野くんが風を切って自転車をこぐ。

ちょっと怖いぐらいのスピードだ。

車輪が道路の隆起した部分に乗り上げて、一瞬、体がふわっと浮いた。

「うひぃぃ」

「こんなの怖ぇの？(笑)」

ビュンビュンと飛ばしながら、大野くんがあははと笑う。

「ジェットコースターとか、あの心臓が口から飛び出しそうなるやつ、ムリなのっ」

「あー、あのキンタマがキュッとなるやつね」

「多分そう！キンタマ無いからわかんないけど！うわわわわ」

「女の子なんだから、キンタマとか言わない！(笑)」

くだらない話にケタケタと笑い合う。

楽しい。

ものすごく楽しい。

心が弾むって、きっとこういうことだ。

だけど2kmの距離は意外と短くて、あっという間に親と住むマンションに到着してしまった。

大野くんの体に巻きつけていた腕をほどき、自転車から降りる。

腕の内側にはまだ、腹筋の感触が残っていた。

「送ってくれてありがと」

「…うん」

「また明日」

「明日」

「じゃ…」

ほんとはもう少し一緒にいたかった。

だけど、未成年を引き止めておくには時間が遅すぎる。

私は振り返ることなくマンションのエントランスを抜け、エレベーターに乗り込んだ。

・

「ただいまぁ」

玄関で靴を脱いでいると、リビングに続く扉が開き、パジャマ姿のお母さんが顔をのぞかせた。

「おかえり。遅かったね」

「あー連絡できなくてごめん。夕飯どした？」

「もうお兄ちゃんと食べちゃったよ。お茶漬けくらいならできるけど…」

「わかった。自分でやるよ」

途中の廊下に荷物をドサッと置いて、ながしで手を洗う。

お茶碗にご飯をよそい、お茶漬けの素をサラサラとやっていると、横に立ったお母さんが

「Aさ」

って話しかけてきた。

「んー？」

ポットに残ってるお湯をお茶碗にそそぎながら適当に返事をする。

するといきなり

「タバコ吸った？」

と聞かれて、手に持ったお茶碗が滑りそうになった。

「熱っ！タ、タバコ？なんで？吸って、ないけど…」

「なんかタバコの匂いする」

お母さんが私の体に鼻を寄せてクンクンする。

リビングにお茶漬けを運びながら

「気のせいじゃないの？」

って、努めて冷静に答えた。

ほんとは心臓バクバクだった。

大野くんにぎゅっと抱きついてしまったことを、今更ながらに思い出した。