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「Aちゃん、これあげる」
松倉さんがコーヒーをテーブルに置いたあとに差し出してきたのは、ラッピングされた両手サイズの箱。
『あの、これって』
「プレゼント。開けてみて？」
包装紙と箱を開けると、そこにはブランド物のキーケースが入っていた。
『こんなに高価なものいただけないです』
「返品はお断り」
恐る恐る手に取ると、中でチャリンと金属同士が当たる音がした。
松倉さんが開けてほしそうな表情をしているので、キーケースを開くとそこには見覚えのある鍵の形。
「俺ん家の鍵、今日作ってきた。ないと不便だろうし良かったらもらって？」
『私、彼女でもないのにこんなものいただけません。だって私はただの……』
ただの常連客。
それも、居候で迷惑をかけているような。
「ただの、常連さん？」
コクンと頷くと、松倉さんは"よく聞いてね"と目を合わせて見つめてくる。
「勿論、お店には色んなお客さんが来るし、それによって商売が成り立ってるわけだけど。その中でも、常連さんがいてくれるから、毎日お店を開くかいがあるんだよ」
『だからって、こんな高価なものと大切な鍵なんていただけないです』
「常連さんの中でも、Aちゃんは特別なんだよ」
"特別"なんて言葉、久しぶりに聞いた。
彼氏と別れたばかりの私には、もうそうやって特別扱いしてくれる人はいないと思っていた。
いつも逃げてばかりで、大好きだった海人と別れた原因も私が逃げたからで。
そんな自分が嫌で、逃げた結果が行きつけのお店のマスターの家に居候だなんて、情けなくて。
「え、まってまって泣く？」
『だって……ｯ』
「ごめん、そんなに嫌だった？」
泣いているせいで、うまく返事もできない。
必死に首を横に振ると、松倉さんに優しく抱き寄せられる。
「泣かせてごめん」
ポンポンと後頭部で動く手。
「ごめんね」
私がいくら首を横に振っても、松倉さんは私が傷ついたと勘違いしていて謝ってくる。
『……が、う』
「ん？」
『違うん、ですｯ…』
「何が？」
『特別ってｯ…言って、くれたから…ｯ嬉しくて…、』
「え？」
少し身体が離れて目が合う。
『だからｯ、嬉しかったの！』
「え、てことは嬉し泣き？」
泣いている顔をジーッと見られるのが恥ずかしくて、頷いてからおでこを松倉さんの胸にくっつけた。
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作者名：愛生
| 作成日時：2022年9月25日 18時
