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「あのお客さんの仕業?」
"仕業"なんて言い方、変だよ。
『あの、』
「元カレなんでしょ、あいつ」
あまり聞かない怒ったような口調。
"あいつ"なんて言葉遣い。
急に人が変わったみたいで、少し怖い。
『あいつって……松倉さん、酔ってますか?』
「俺お酒強いよ」
『だったら尚更、』
「こんなの、見ちゃったら気にならない男なんていないよ」
『でも私の事なんて関係ないじゃないですか』
「あるよ」
『プライベートは干渉しないってルール、覚えてますか?』
「覚えてるけど、覚えてない」
痕をずっとなぞってくる指。
『ちょっ…、』
「ふっ、くすぐったい?」
笑ってない、ギラついた目。
動けずにかたまっていると、顔が近づいてきて首にうまる。
『ね、まって』
「……可愛くてムカつく」
痕がある場所に何度かチュッと音を立てて触れる唇。
『だめッ、』
同じ場所に痕を付けられた感覚。
やっと離れた松倉さんの表情を見ても、感情が読み取れない。
『松倉さん、』
「……より、戻すの?」
『え?』
「別れた女の子にこんなの付けたりリングあげるぐらい独占欲丸出しなんだから、あいつまだAちゃんのこと好きでしょ」
『……』
「やっぱりあのリング、返しなよ」
『え?さっきと言ってること……』
「気が変わった。気持ちないならあいつに返してきなよ」
『松倉さん、なんか変です』
言葉遣いが鋭くなったのに、腕を回して抱きしめてくる力は相変わらず優しい。
「……Aちゃん、ここに居ていいからね。てか、ここに居てよ」
『どうしてですか?』
まるで、嫉妬しているみたいな言動。
「あー、ねむい。おやすみ」
『無視しないでください』
「ほら、寝るよ。このままギュッてしてあげるから」
『ハグで誤魔化さないで』
「おやすみ」
『ねぇ、』
「……」
聞きたいことには答えてくれない。
やっぱり私の気持ちを弄んでいるだけ?
年上だから、年下をからかってやろうって、そういう考えなのかな。
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作者名:愛生 | 作成日時:2022年9月25日 18時