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『…もう、終わりにしよ』





残業を終えて帰ったある日。


私が疲労でイライラしすぎていたのかな。





「は?」


『もう疲れちゃった』


「何が」


『私、海人のお母さんじゃないよ』





家に帰ると、私よりも先に仕事を終えた彼氏の海人がゲームをしていた。


疲れて帰っても、私が片付けないとすぐに散らかる部屋。


"まだ?"と急かされるご飯。


たまった洗濯物。


そんな現実に嫌気がさした。





『次の彼女には、優しくしてあげてね。さよなら』





強がって、家を出た。


こういう時に限って、どうして雨なんだろう。


案の定仕事用のカバンに折り畳み傘を入れていたから良かったものの、田舎から出てきた私は行く宛てなんてなくて。


ボーッと歩いて辿り着いたのは、あの喫茶店だった。




案の定、今日も雨。


"喫茶アルタイル"と書かれた看板を見つめる。


ここに来たところで、今日の宿はないのに。





「……あの、入られます?」





ドアの前で立ち尽くす私を見兼ねたのか、前も居たメガネをかけた店員さんがドアを開けてひょこっと顔を出す。




『あ、すいません。邪魔ですよね?帰ります』





帰るって、何処に?


家、ないのに。





「あの!」




少し歩いた先で路頭に迷って立ち止まっていると、さっきの店員さんが傘もささずにお店から出てきていた。





「何度かいらっしゃっているお客様ですよね?前、メニューについて褒めてくださった...」


『多分、そうです』


「あの、もし……その、」





何故か言葉に詰まった店員さんは、雨足が強まっているせいで濡れている。





『お兄さん、傘ささないと』


「もしよかったら、お店 来てください」


『え?』


「何か用事があるのであればいいんです!でももしお時間があるなら、」


『私のことはいいので早くお店入ってください。風邪ひいちゃいますよ』


「……時間、ないですか?」





捨て犬みたいな顔で、濡れた髪の隙間から目をうるませて見てくる。

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作者名:愛生 | 作成日時:2022年9月25日 18時

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