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『でも、この辺だともう当日飛び入りで泊まれるところがないから』


「それでも、そんなところに女の子ひとりで泊まっちゃダメ」


『だってもう、どこも……』





グラッと視界が揺れる。


"Aちゃん!?"と私を支えてくれている松倉さんの声が響いて聞こえる。


起き上がりたいのに身体にチカラが入らない。


"は?まって、あっつ!"おでこに触れる手が冷たい。


頭痛が悪化して開かない目。


そうか、私熱あったんだ。


……どうしよう、起きなきゃ。


そう思っているのに、身体が言う事を聞いてくれない。







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目が覚めると、この前と同じ景色。


違うのは、床に座ってベッドに寄りかかって寝ている松倉さんがいること。


私はあのまま起き上がれずに、きっと松倉さんが家に運んでくれたんだ。




時計を見ると、今は深夜1時。


重い身体を起こすと、おでこから落ちるタオル。


ベッドに突っ伏して眠る松倉さんの近くには、スポーツドリンクと解熱剤。



……迷惑かけちゃったし、早く出ていかなきゃ。





「ん、起きた……?」





眠そうにゆっくりと瞼を開けて、きゅるんとした目で私を見てくる。





『ごめんなさい、ご迷惑おかけして』


「大丈夫だよ」


『でも、このタオルとか色々』


「迷惑じゃないけど、怒ってる」


『え……?』


「熱あったなら言ってよ」


『それは気付かなくて、』


「だとしたら無理しすぎ。絶対昨日雨にあたったせいでしょ?こんな時ぐらい頼ってよ」


『でも、松倉さんは』


「ただの喫茶店のマスター?」


『はい。だから迷惑なんてかけるようなことしちゃいけないというか、沢山お世話になったのに』


「そういうのいいから」


『もうこれ以上お手数お掛けすることはしませんから』





フラフラする身体でなんとか立ち上がる。





「こんな深夜にどこ行くの?」


『どこか、行きます』





一歩前に出ようとすると、松倉さんにグッと腕を引かれる。





『わっ、』


「こんなので起き上がれなくなるくらいの病人を放っておけるわけないでしょ」






再びベッドに寝転がるような体制になった私。


確かに身体は怠くて、起き上がるのも精一杯。


でも、流石にもう迷惑はかけたくない。


何とか起きなきゃ。

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作者名:愛生 | 作成日時:2022年9月25日 18時

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