【kgm】社長が彼氏は乙女ゲーかなんかじゃん

EP.16_1 ページ9

少し前に立てた旅行の予定。本来は日帰りの予定だったのだが、ハヤトがもう一日分休みを取ってきたので私も半ば無理矢理休みをぶんどって一泊二日の温泉旅行となった。そんなに遠出すると疲れるので箱根の小さな旅館を予約した。ハヤトは「もっと良いところに」と言っていたがどうせ一泊二日なので小さな所でいいだろうと私が無理矢理押し切ったのだ。なんてったって提案してきたところが普通にバカ高いとこだったからな、こいつほんと変なところで金銭感覚狂ってやがるぜ。普段は比較的庶民的な金銭感覚してんのに、なんでだ。


「あれ、これ旅館どっち？」

「えー……定食屋がここにあって、私たちがこういう向きで立ってるから……こっちですね」

「おっけ、もう何も分からんから先導してくれ。迷っても文句は言わん」

「貴方本当に地図見るの苦手ですよね」

「特段方向音痴ってわけでもないんだけどね、来た道とかは間違えないし。でも方向の把握に死ぬほど時間かかるんだよな」

「……ん？ それを方向音痴と言うのでは？」

「勘のいいガキは嫌いだよ」

「同い年だが？ あ、次の角右です」

「ほーい」


　服やらが入った鞄を持って——といくはずが、大きい荷物は合流して早々ハヤトに奪われてしまったので小さい鞄以外何も持っていない。二人分の荷物を持っているハヤト当人は特に大変そうにしている素振りもなく、普通のスピードでスタスタと歩いていく。やはり加賀美ハヤトはゴリラだったのかもしれない、あの細長い身体のどこにそんな筋力があるんだか。私はスマホを見ながら迷いなく歩いていくハヤトの後ろをカルガモの如くついて歩く。私の記憶ではハヤトも十分方向音痴だったはずなのだが、予習でもしてきたんだろうか。そうだとしたらなんか申し訳ないなあ、私旅行前に予定とか一切立てないタイプだからなあ。次どっか行く機会があったら私が色々準備するとしよう。




　 ◆ ◆ ◆




「うわ、景色良」


　部屋に着いてカーテンを開けると、見渡す限りの緑と小川。夏の強い日差しが水面に反射して目に攻撃してくるがそんなの知らん。ちなみに日焼け止めは面倒臭いから塗ってないです。綺麗な景色を軽くスマホに収め、ついでにそれを中村ちゃんのLINEに送り付ける。「拝啓中村ちゃん、仕事頑張ってますか。私は元気です(^^)」……と。多分明後日出社した時に若干怒られるけどいいでしょ、多少の幸せ自慢したってバチは当たらん。

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