※第20話 side:降谷 ページ21
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「俺さ。嫌いなんだよね」
「っ、あの」
「学校とか仕事以外で『先生』って呼ばれるの」
「すみませんでした」
威圧的な低音。
呼び方一つでこんなに機嫌を損ねるとは思いもしなかった。
「そう呼ばれるほど出来た人間でもないし。対等でいたいからさ」
解かれていく包帯。
ガーゼを取り除いて顕れたのはスラッと伸びた一本の線。
特に化膿している様子もなく雪成が胸を撫で下ろしたのが分かった。
「・・・悪化してなくて良かった」
安心したような声音。
予想以上に心配を掛けていたことに今更後悔した。
「もう包帯は必要ないな」
「・・・病院は」
「今更」
「ですよね」
苦笑を漏らせば雪成が呆れたように肩を竦めた。
ふと目についた手首の切創。
無数に付いた鋭い傷は随分と古いようで一見では分からないほど。
僕の視線の先が何処に向かっているのか気付いた雪成が困ったように微笑んだ。
「・・・言っただろ。出来た人間じゃないって」
傷は10年以上前のもの。
当時、彼はー・・・
試合中の接触事故で膝を壊し大好きだったサッカーを辞めざるを得なかった。
夢だった国立。
ユースにも選ばれていた。
約束された未来。
一瞬で全てが潰えてしまった。
「かなり荒れてさ。しょっちゅう警察の世話にもなってた」
「・・・そう、だったんですか」
思いがけない彼の過去に自然と眉間に皺が寄った。
「そんな顔するなよ。そのおかげで今の俺があるわけだし。・・・ほら、出来た」
化膿止めを塗った箇所には大きめのガーゼ絆が貼られていた。
「ありがとうございます」
「どう致しまして」
唇が綺麗な弧を描いた。
「お礼は安室さんの作ったハムサンドとケーキセットで」
「梓さんに聞いたんですか?」
「一番人気だって。そう言われたら食べてみたくなるのが人間の性だろ」
当然だ、と言わんばかりに雪成が得意気な笑みを浮かべた。
「なぁ。昼食まだなら安室さんも一緒に食べるだろ?」
窺うように首を傾げる。
・・・あざとい。
本人は全くもって無自覚のようだ、が。
上目遣いが結構クる。
・・・いやいや。
雪成は28歳の成人男性。
同性の上目遣いに何を考えてるんだ、僕は。
「・・・駄目か?」
「っ、」
甘えるような声音。
揺れる漆黒の瞳が立ち尽くす僕を捉えて離さない。
きっと僕は。
「直ぐに用意しますね」
雪成の甘えるような声音と上目遣いには一生敵わない。
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鐘稀(プロフ) - くれはさん» コメントありがとうございます!引き続き楽しんでもらえるよう亀更新ですが頑張りますね! (2020年4月1日 7時) (レス) id: ff7da1074b (このIDを非表示/違反報告)
くれは - 頑張って!続き出来たら飛んできます!w (2020年3月30日 20時) (レス) id: 2bfb99dd96 (このIDを非表示/違反報告)
鐘稀(プロフ) - くるすけさん» コメントありがとうございます!はい!ちょっとずつですが更新頑張ります!ありがとうございました! (2020年2月24日 19時) (レス) id: ff7da1074b (このIDを非表示/違反報告)
鐘稀(プロフ) - そらさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けたなら幸いです!とてつもなく亀で申し訳ないですが生ぬるい目で見守ってやってください(笑)ありがとうございました! (2020年2月24日 19時) (レス) id: ff7da1074b (このIDを非表示/違反報告)
くるすけ - 面白かったです!更新頑張ってください! (2020年2月24日 14時) (レス) id: 022b55326f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:撞稀 | 作成日時:2020年2月11日 21時