※第45話 ページ47
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'感傷に浸っている暇はない'
赤井にそう忠告されてたのに。
黒目が落ちそうなほど、安室さんの瞳は大きく見開かれている。
その瞳の中。
今にも泣き出しそうな、顔を歪める俺の姿が映っていた。
'組織と繋がってる情報屋'
与えるのは、そこまでだった筈なのに。
勘の良い目の前の男は気付いただろう。
景光と繋がりがある、と。
溢れそうになる涙を必死に耐えるように、唇を噛み締めた。
彼のことになると歯止めが効かないのは、彼の死を防げなかった自責の念。
彼の一方的な約束を果たそうとするのは、せめてもの償い。自己満足。
楽になりたかった?
景光のことで互いの傷の舐め合いをしたかった?
お前の所為じゃない、と言ってほしかった?
あぁ、そうか。
受け止めてくれる、と期待したんだ。
視線を上げれば、安室さんが辛そうに眉根を寄せていた。
・・・駄目だなぁ。
自分の弱さに反吐が出る。
張り詰めた空気に耐えきれなくて、珈琲を飲み干した。
「・・・帰ります」
「っ、待て」
立ち上がり様、腕を掴まれた。あまりの力強さに腕が軋んだ音を立てる。
こういうとき、痛みを感じれたらな、と思う。
そうすれば彼の俺に対する憤りを、肌を通して感じることが出来るのに。
「まだ話は」
「終わりましたよ」
「っ、」
冷たく低い声音で告げる。
安室さんの表情が強張り、喉が上下に動いた。
「・・・これ以上、貴方に話すことは何もない」
離してください、と声を固くして言うが離してくれそうにない。真っ直ぐ見つめる安室さんの瞳が、戸惑いに揺れていた。
「このまま行方を眩ます、なんて事しないですよね?」
景光との約束がある。
貴方を景光の代わりに裏でも表でも支える、と。
その縛りがある限りーー
「俺はまだ、此処にいます」
約束を果たす日まで。
安心したのか、安室さんの表情が和らいだのが分かった。俺も負けじと挑発するような笑みを浮かべる。
「これ以上はボロが出そうだから、帰ります」
「本当に、君は。・・・いや、何でもない」
呆れたような声音。
腕を掴む手の力が緩んだ。
「それじゃあ、また」
「今度はポアロでお待ちしてます」
この日の夜中、再び彼と会うことになるとは、全くの予想外だった。
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作者名:鐘稀 | 作成日時:2019年11月2日 21時