※第14話 ページ16
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「彼は江戸川コナン君。僕は『ポアロ』という喫茶店で働いてる安室透です」
君は?と問いかけるような視線。
「・・・高崎A」
「連絡の取れる家族はいますか?」
家族だった養父は随分前に失くした。
家族のように思えた男も、もういない。
胸の奥から溢れそうになる想いを誤魔化すように笑った。
「家族と呼べる人は、誰もいない」
一瞬、見開かれた瞳。
「そう、ですか」
気まずそうに安室さんは視線を正面に戻した。
「高崎さん。お腹、痛くないの?」
特に苦しんだりする様子のない俺を、探るような眼差しでコナンが見つめる。
安室さんも気付いたらしく、疑いの眼差しが向けられた。
「人より痛覚が鈍いみたいでさ。実はそんなに痛くないんだよね」
それでも冷や汗は止まらず、さっきから呼吸は浅い。きっと顔色も酷いだろう。
「・・・とにかく、急ぎましょう」
安室さんは更にアクセルを踏み込んだ。
着いた先は『米花中央病院』
目暮警部、もしくは高木刑事が連絡してくれたのか。救急搬送の入り口にはストレッチャーが用意されていた。
安室さんに乗せてもらい、すぐさま手術室へと運ばれる。全身麻酔を打たれ、俺の意識はそこで途切れた。
重たい瞼を開けると、真っ白な天井が視界いっぱいに映った。鼻を突く消毒液の臭い。
そうだ、病院に運ばれたんだった。
ぼんやりとする思考で思い返す。
視線を彷徨わせれば、視界の端に揺れる金色の髪。
「・・・安室さん?」
掠れた声音で名前を呼ぶ。
振り向いた彼は小さく息を吐き出し、嬉しそうに目を細めた。
「コナンは?」
「先に帰しました。随分、暗くなったので」
窓の外の陽はとっくに沈んでいた。
驚いて見上げれば、微笑む安室さんと視線が絡んだ。
「医者を呼ぶので、寝ていてください」
ナースコールを鳴らせば、医者が慌てて駆け込んできた。
担当医に「何でナイフを抜いたんだ!!」とこっぴどく叱られた。
出血量は酷いが命に別状はなく、日常生活も問題ないだろう、と診断された。
いや、問題が一つあった。
経過観察の為、五日間の入院生活。
つまりその間、仕事はおろかパソコンにすら触れられない。
「スマホで遠隔操作すれば問題ないか」
「遠隔操作、って何の話ですか?」
小声で呟いた言葉は安室さんの耳にしっかり届いていたらしい。
にっこり、と笑っているが目は笑ってない。
厄介なことになった。
自分の犯した失態に、自嘲の笑みが零れた。
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作者名:鐘稀 | 作成日時:2019年11月2日 21時