Episode32 -3 ページ42
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「……翔さんのお休みを頂戴するのは悪いですし……」
そもそも翔さんが私と出かけたいかどうかもわからないし。
毎日朝はお店まで一緒に歩いてるし。
それ以上を望むのはいろいろと申し訳ないというか。
とにかく翔さんの負担にはなりたくないわけで。
「それに、朝一緒に出勤できているだけで…その…」
言いながらなんかすごく恥ずかしいことを言っている気がしてきて言葉がしぼむ。
二宮兄妹は顔を見合わせると同時ににんまりとした笑顔を浮かべた。
「ふふ、って言いながら翔くんをちらちら見てるAさん可愛いね」
「朝の出勤もデートですってか、ごちそうさま」
「……いやあのそういう意味では！」
二人の言葉に恥ずかしさが膨らんで慌てて言葉を挟む。
さっきから翔さんは黙ったままで、やっぱり余計なことを口走ってしまったかもしれない。
「もう、終わり、です。この話終わり」
一生懸命話を終わらせると二宮兄妹がニヤニヤしながら「しょうがないなぁ」と話を終わらせてくれた。
「で翔ちゃん、そこんとこどうなわけ」
「二宮さん！」
と思ったら二宮さんがドストレートに翔さんに聞いてしまった。
ああもう、私どうしたらいいんだろう。
ドキドキというか、戦々恐々としながら隣の翔さんを見る。
翔さんは食べ終わったお皿を見つめたまま固まっていた。
かと思うと、ふいにその顔がこちらを向く。
ばっちり目が合って、ドキリと意味もなく心臓が跳ねる。
「お前、やっぱ行きたいの、デート」
こてんと翔さんが首をかしげる。
ずいぶんと純粋な疑問に私はためらいながらも素直にうなずくことにした。
「それはまぁあの…そうですね……行きたい、です…」
「……そっか」
翔さんは短く呟いただけだった。
その手は水に伸びて湿らす様に口に含む。
なんとなく、場に沈黙が落ちた。
廊下を動く人の気配が近く聞こえる。
タンと翔さんが置いたグラスが音を立てた。
「一通り食べたし、本題に入るか」
走った沈黙の糸が切れる。
ほっと息を吐き出して、私は「そうですね」と頷いた。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月1日 10時
