Episode32 似ている ページ40
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その日の夜。
深月の扉を開けると亜理紗ちゃんがすでに待っていて私を個室へと案内してくれた。
かくいう本人は仕事を割り出そうで、私服に着替えてくると言って一度個室を出て行った。
場所はいつも翔さんが使っている個室で、この席から見る景色も見慣れてきた。
こんなことの一つ一つが翔さんと過ごした時間の積み重ねになっていくんだな…なんて、ちょっと感傷的なことを思うのは、まだ気持ちが平常には戻っていないからかもしれない。
私が着いてすぐ個室の扉が開いた。
「A、着いてたのか」
「はい。今ご連絡しようと」
スマホを掲げて見せると翔さんは手にしていたスマホをテーブルの上に置く。
上着をラックにかけるとそのまま翔さんの手が伸びてきた。
「よかった」
「わっ…」
椅子に座ったまま翔さんを見上げていたら、かがんだ翔さんに腕に抱きしめられた。
ぎゅっと力が込められて、ためらいながら背中に手を回す。
「……すみません、お仕事の時間なのに」
言いたいことはたぶん感謝なんだけど。
口からついて出たのはそんな言葉。
翔さんが首を振ったのが振動で分かった。
身体が離れると目が合う。
「いい。お前の方が大事」
仕事は適当に話しつけていくから、と昼間連絡した際に行ってくれたように、実際に仕事を休んでくれたのだろう。
翔さんはホッとしたような顔で笑っていて、その顔を見てようやく私は安心した。
思ったよりも心はくたびれていたのかもしれない。
「カズたちはまだか」
「亜理紗ちゃんは着替えてくるって」
「あぁ、仕事終わりの時間なんだっけ」
当たり前のように翔さんは私の隣に座る。
すぐそばに翔さんの温度があることが心強かった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月1日 10時
