Episode31 -6 ページ39
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場所は変わって、繁華街の路地裏。
徳井さんに睨まれてそっぽを向いているその女性は私たちよりだいぶ年上の方のようで、濃いめの化粧がされた顔はなかなかこちらを見てくれない。
「あなた、押そうとしたでしょ」
徳井さんがずいぶんと怒ってくれているものだから私はなぜか冷静な気分で徳井さんを沈める。
「あの、とりあえず押されてませんし、大丈夫ですから…」
「大丈夫じゃないでしょ。車に轢かれてたかもしれないのよ？」
「そうなんですけど…」
そうなんだけどそうじゃないというか、とにかく状況すらよくわかっていなくて私は徳井さんを抑えて女性に向き直る。
「あの…数日前に私を押したのも貴女ですか？」
最初に出てきたのはそんな質問だった。
聞きたいことはいろいろあるはずで、だけど今の私はまずそのことを確認したかった。
もしかしたらこの人ではないかもしれない。
違うのにこの人を責め立ててしまうのは怖かった。
「…そうよ」
大きなため息を地面に向かって吐き捨てて女性は頷く。
「私が押したわ。あなたが痛い目見ればいいと思ってね」
キッとにらみ上げられて足がすくむ。
明確な敵意にさらされる機会というのは、そうそうあるものではない。
「百合耶にちょっと優遇されたからって、調子に乗るんじゃないわよ！」
「っ！」
大きな声に肩をすくめる。
隣にいる徳井さんがそんな私の肩に手を置いた。
「かわいそうな人ね」
やけに冷たい声で徳井さんは言った。
その音は妙に狭い路地に反響して、コンクリートの壁に跳ね返って私の耳まで届いた。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月1日 10時
