Lillyの王様 ×five×《ars/s.s》 (ページ33)

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Episode30 -6 ページ33

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「あ……私…」

「とりあえず…店に行こう。そこが一番近い…立てるか」

「……ごめんなさい」

腰が抜けて、という表現が正しいのかもわからないけれど。

息をするだけで精いっぱいで、私はなんとかそれだけを返す。

「わかった。ちょっとごめんな」

私の身体を地面に降ろして翔さんが立ち上がる。

「ほら、ちゃんと掴まっとけよ」

「わっ…」

ぐいんと身体が持ち上げられる。

膝の裏と背中に翔さんの手が回っていて、ぐらつく身体にとっさに翔さんの首に手を回す。

「それでいい。ちゃんと掴まっとけよ」

優しく翔さんが微笑むのを見ながらようやく私の頭は理解する。

これ、いわゆるお姫様抱っこってやつでは…？

「え、あの…」

「大人しくしてろ」

動こうとしたら強い力で抱きしめられてしまって動けなかった。

周りの好奇の目にもこの態勢の恥ずかしさにも耐えかねて私は翔さんの胸元にぎゅっと顔を押し付けた。

……でも今。

押された…よね？

ぶつかったという感じではなかったような気がする。

雑踏の中から突然飛び出した何かに押されたような、そんな感じだった。

翔さんが歩くスピードに合わせて少しだけ揺れる頭の中で、そんなことを考えていたけれど今はまだそれを吐き出すことはできなかった。

雑踏に紛れてしまうかすかな音は聞こえない。

その音が歪んでいたとしても、音が聞こえなければ気づきようもないのである

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