Episode29 -2 ページ22
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嘘を吐くつもりはなかったけどちょっとの強がりを込めてそう言えば翔さんが弱く首を振る。
「やっぱり夜も俺が迎えに行く」
「そんな…お仕事がありますし」
「お前より大事な仕事なんかない」
「翔さん……」
翔さんはパッと顔をあげる。
乱暴にテーブルに置いたマグカップがガタンと不穏な音を立てた。
「もっと早く気づけばよかった。そうすればこんなことには、」
「翔さん、私何度も言ってますよ。翔さんのせいじゃないですって」
「でも、」
「私は！……翔さんが来てくれただけで、十分です」
怖がりな王様に伝わればいい。
そう思いながら翔さんの目を見る。
優しい色をしたミルクティーが入ったマグカップを翔さんが置いた真っ黒なブラックコーヒーのマグの横に置いて、それから翔さんに手を伸ばす。
大きな手を包み込んだら、翔さんがどこか驚いたように息をのんだ。
「………いいんです、もう…大丈夫ですから」
何が大丈夫なんだろうと私は思う。
それでも口から滑り出るのはそんな強がりばかりだ。
本当は、聞きたいことがたくさんある。
気になることがありすぎる。
それでも私はやっぱり怖がりで。
きっと翔さんも、臆病だから。
私は言葉を飲み込んで、大丈夫だなんて見栄を張る。
少しでいいから、翔さんの気持ちも守ってあげられるようになりたかった。
「……わかった、もう言わない」
「はい」
「……風呂入って温まってこい」
コーヒーを一気に飲み干して翔さんが立ち上がる。
寝室の方に消えていく翔さんの背中が恋しくて仕方なくて、ざわりと胸の中を騒がせた。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月1日 10時
