Episode28 -5 ページ18
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「ふざけるな…！母さんの葬儀にも来なかったような奴に俺の幸せをどうこう言われたくなんかない！」
翔さんの叫ぶような声なんて初めて聞いた。
いつもどこか落ち着いた声で話す翔さんは今どこにもいない。
感情をむき出しにして、必死に吠える犬みたいに。
私の腕をつかむ翔さんの手にひどく力が込められていて腕が痛いけれど。
それはそのまま翔さんの言葉の強さを表している。
翔さんが、怒りを叫んでいた。
「言われたパーティーや公的場には出ている。金は自分で稼いでる。俺は一人で生きていける、心配なんかしてもらわなくて結構だ！この家に戻れなかろうがどうでもいい。俺はもう貴方とも二度と会わない。放っておいてくれ…！！」
部屋中の空気がビリビリと震えていた。
それはまるで翔さんの心の泣き声みたいで、私は怒りに震える翔さんの腕に触れる。
荒く息を吐いた翔さんが私に気が付いたみたいにこちらを向いた。
その目がふいに歪んで、逸らされる。
それでも私は私の腕をつかんでいた翔さんの手をそっと外して、両手で包み込んだ。
ゴツゴツした男の人の手。
誰よりも安心できる、その人の手。
しっかりと包み込んで。
根拠なんて何にもないのに、大丈夫だよって言いたかった。
伝わればいい。
その一心で翔さんの目を見上げた。
翔さんは何度か深呼吸をして、私の手を握り返す。
「理子さんまで使ってこいつに近づいたことは絶対許さない。二度とAに近づくな」
吐き捨てた翔さんが私の手を引く。
扉をくぐる寸前、翔さんのお父様の声が私たちの背中に届いた。
「お前の運命は百合亜君だった。これは紛れもない事実だ。……その子も誰も、お前の運命ではないんだよ、翔」
「……知ったことか」
低く翔さんが唸る。
乱暴に閉められた扉がバタンと大きな音を立てた。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月1日 10時
