Episode7 今はまだ、 ページ1
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あの頃、私はよく「天国に行くにはどうしたらいいの」と聞いては智さんを困らせていた。
高校生なんてそんな子供じゃないのに、聞き分けのない子供みたいにそんなわがままを口にした。
両親はあまり家にいなくて代わりにいつも私の面倒を見てくれていた智さんは困ったように笑いながら「そうだなぁ…天国に行くのは無理だけど、天国に届けるお花を用意するってのはどうだ」なんて私の頭を優しくなでた。
それからしばらく、私は今智さんと一緒に花の仕入れ作業をしているのだから人生はどこでどうなるのかわからないものである。
「ふあ…」
「Aちゃん寝不足か？」
「あはは、ちょっと…」
寝坊しなくてホント良かった。
仕入れを終えて店に戻ってくると店頭に並べるためにやることがいろいろとある。
バタバタと動き回っている間は余計なことを考えずに済んで気が楽だった。
けれど華美なその花を一か所にまとめているとどうしたってその華やかな香りが鼻につく。
季節柄店頭で大きく展開されたシクラメンよりも濃くて深い深紅の花が物言わぬまま私を見上げている。
だって、予定が入っていたんだもの。
だって、それは恒例の行事なんだもの。
誰も祝わない聖なる人の誕生日前夜に、私は大切な彼の誕生日を祝っているだけ。
カレンダーに赤く色づいた日付とおんなじ。
それはそういうものなのだ、私にとって。
無意識にため息がこぼれて、そばにいた智さんがちらりとこちらを見た。
「ほらAちゃん、あっちの百合そろえといてくれ」
そんなことを言うなり私の手から薔薇が取り上げられる。
「でも」
「ほら、行った行った」
シッシと手で追い払われて薔薇から百合のもとへと歩み寄る。
白いそれに櫻井さんの顔が浮かんで、もう一度ため息を一つ。
だけどその口角が上がるのを自分で感じて、あきらめて息をついた。
何を難しく考えたって仕方がない。
私は雅紀くんの誕生日を祝いたいし、今日櫻井さんからの注文が入ってないこともさみしいのだ。
百合の花をそろえる。
昨日疲れた顔をしていた櫻井さんは今日どんな顔をしてるかなって、ふと思う。
「よし。Aちゃん、店開けるぞー」
「はーい」
あの白くて小さな顔に百合のように清廉で優しい笑顔が浮かんでいればいい。
少なくとも彼が嫌いだと言った華美な香りが今日は彼のもとに訪れないければいいと願いながら智さんに返事を返したのだった。
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iCHiKA(プロフ) - ゆきさん» コメントありがとうございます。初めから読んでいただいているとのこととても光栄です。これ伝わるかなぁと思いながら書いてたシーンなんですが、そう言っていただけてよかったです！引き続きお楽しみいただけるよう頑張りますのでお付き合いの方よろしくお願いします。 (2020年2月5日 20時) (
レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 初めてコメントさせてもらいます。立ち上げ当初から読ませて頂いてたんですが、今回のシーン、ゾクゾクしました！素敵です。このお話がとても好きなので、更新楽しみにしてますね。 (2020年2月4日 20時) (レス) id: c24168ecda (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - あまさん» 続編にもお越しいただきありがとうございます！引き続きお付き合い願えれば嬉しいです。 (2019年12月29日 21時) (レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
あま - 移行お疲れ様です!!!これからも楽しみにしてます!頑張ってください!!! (2019年12月29日 0時) (レス) id: 5287825b4c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年12月27日 15時
