10話 ページ12
低く、しかしはっきりと聞こえる声がベンチに響く。
「まーだ財布の事気にしてんのかよ。今はサッカーに集中しろ」
「でも、僕達は別にサッカーがやりたかった訳じゃ」
「条件、だろ？一種の契約みたいなもんなんだろ？契約を果たせた場合、お前らには報酬が発生するんだろ？」
「…そうですね、しかし」
「やりたくもねぇことを何故、って言おうとしてるだろ。もしその契約に合意してんなら、ちゃあんと果たさないとなぁ？」
「っ…」
「…ちょっとトイレ行ってくるわ」
そうして、俺はその場を離れた。ハーフタイム中にトイレはいいのか知らないけど。
「ふぅ〜、スッキリしたー。ってかやべえ、ハーフタイム終わってんじゃん！」
急いでグラウンドに戻る。今度は韓国のキックオフだ。
後半開始のホイッスルが鳴る。と共に瞬木がボールを取る。早えよ。
そしてドリブルで相手を抜き始める。俺より上手い。しかし俺が上がっている最中に周りを見ていると、雷門の3人以外の皆は呆れているようだった。
「何を怒っているんだか…」
そう言っているうちに、瞬木はボールを取られてしまう。ボールを正確に狙った鋭いスライディングだった。
ってかおい、フォロー行けよ！俺が行くべきか、すまん
「みんな！何やってるんだ！そんな気持ちでプレイしてたら勝てない！どうして瞬木のフォローに入らないんだ！」
松風が皆に言い始める。いや今勝ってますけど。
「同じフィールドにいる以上、みんな仲間じゃないか！仲間の事が信用できなくてどうするんだ！」
流石キャプテン、いい事言うねぇ。
「瞬木は、どんな扱いをされても必死に戦ってる！よく見るんだ！このフィールドで起こっている事を！」
瞬木がボールを取ったが、スピードが抑えられなかったのか、ボールが出た。
「…やっぱり、瞬木君が財布を盗ったなんて間違いじゃないかな」
「よく考えたら、橋田の言う通りだよな。あいつがどんな奴だろうと今はサッカーをしてる訳だし」
「確かにな。あいつはこの勝負を本気で戦ってる」
「真名部、どうなんだ？」
松風がベンチの真名部に向かって言う。
「う…確かに…認めます。この試合、瞬木君の活躍は無視できません。彼に協力した方が勝率は30%上がります」
「真名部…」
「もー、何よ！これじゃまるでこっちが悪者じゃない。負けてらんないんだから、私達もいくわよ！」
…やっと分かってくれたか。これで少なくともこの試合は皆協力してくれる筈だ。
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作者名：名無 | 作成日時：2020年1月30日 21時
