続富豪刑事の護衛(仮) (ページ29)

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「ここは。……俺は一体」
武井を網膜投影型VRシステムに座らしてから約二十分後、武井の口から声が漏れ始めた。
武井の行動や仮想現実に合わせ、目まぐるしく動くアームとテーブル。映像と武井の言葉に合わせ、仲本はマイクに声を送り出す。
「武井」
「長さん」
「このロッカーだ。さっさと開けろ」
「駄目だ。見たら、殺される。ここに居たら、アイツが」
機械越しに見える武井の顔は、ひどく青白かった。
「アイツ？誰だ、アイツって」
「し、知りません！本当です。本当に知らないんです」
「顔を見たらわかるか」
「そ、それは。でも――」
頭を押さえながら呻き声を上げる武井。
映像の切りかわりと共にベンチの形が変形し、小道具も次から次へと用意されていく。
「長さん。……ここは、あの世ってやつですか」
「出産祝いだ」
Aはただの紙切れを武井の手に持たせる。
それから少しして、大助はAの肩を叩く。Aは振り返ると、キーパッドの画面が表示されているスマホを渡された。
武井の方を見ると、手を伸ばしてきたため、スマホを手に置く。すると、武井はどこかに電話をかけ始める。
「なんで」
その言葉と共に、大助は武井からスマホを奪い発信者番号を確認する。
武井が目を覚まし、網膜投影ディスプレイの前に手を出すと、アームは元の位置に戻っていく。
「これは、一体」
「あなたが見ていたのは、網膜に投影された仮想世界です」
武井の質問に対して、鈴江が丁寧に解説する。
「掛けた相手は、今は亡き斎木部長」
「違う！これは――」
「斎木部長の娘を嫁に貰ったお前には、野望があった。それは、悪い事でも何でもねえ。正義を為すには力がいる。それは、紛れもねえ事実だ」
「違うんです！俺は、ただ……！」
仮想世界と現実世界との区別がはっきりしていないのか、武井は過剰な反応を示していた。
「お前は、成れたのか。自分を誇れる親父に」
武井は、頭を抱えながら涙をこらえるだけだった。
大助とAは、そんな武井をただ見つめるだけだった。

check-7 金は諸悪の根源ー終ー