僕が君の傘になろう。３

その先に見えた世界。１ ページ19

Aside


二人で戻って来た自宅前には、
なぜか、引越しの小さなトラックが停まってた。


玄関の扉が開いて、
お母さんが出て来て、
テキパキと、
引越しの作業のお兄さん達に指示してるのが見えて。


亮が、冷静に車をバックさせて、
角に止めた。


(もう家には戻らんとこ。
俺んちに住めばええ)


(でも、・・・)


(A、俺より、お母さんと暮らしたい？)


(そういうわけじゃ、ないけど・・・)


迷ってたら、
お母さんが咳き込んで、
少しふらついてるのが見えて、
また気持ちがぐらつきそうになる。


(A。もう振り返らんとって。
俺と生きていこ)


うなづく前に、
亮はハンドルを取り直してて、
車が走り出した。








辿り着いたのは、休日のオフィスビル。


着替えと財布を取りに行くだけなのに、
心配だからって、

亮、更衣室の目の前の廊下で、待ってるって。


昨日の洋服に着替えて、
メイクし直す。


仕事中だとは思うけど、
智に、引越しのトラックが来てて、
お母さんが家にいたこと、
ラインで知らせておく。



外に出たら、
亮は、廊下でそわそわしてた。


(どうしたの？)


(いや、遅いから。
誰かになんかされてへんかなって。
女子更衣室に踏み込むわけにいかんし。
イラッイラして・・・)


(誰もいなかったよ。
今日、お休みだし・・・)


(誰が来るか、分からんやん！
現に、俺らは、ここに来てるわけやし)


(亮、心配性なんだね)


そう言ったら、真っ赤になってる。


可愛いなあって思ったら、
私の手を繋いで、歩き出すから。


亮、会社の中だよ、って、
言いたかったけど・・・

会社で、声を出す勇気なくて。


そのまま、
廊下を突っ切って、
エレベータに乗り込む。


(ちゃんと話したいこと、聞きたいこと、
色々、あるねん)


手話してるから、仕方ないけど、
手を離されちゃって、寂しくて。


うなづいて俯いた時、
ぎゅっと抱きしめられた。


「どこにもやらんから」


亮が、何か、耳元に囁いてる。


なんて言ったのか、分からないけど・・ ・


吐息と、

掠れてるけど、
耳障りのいい声。


私を見つめる、
切ないまなざしだけで、
胸がしめつけられる。

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