僕が君の傘になろう。

ざわめき。１ ページ9

Aside


結局、ビーズの指輪は、
錦戸主任の手元にあるまま。

懇親会のボーリング会場から出たら、
錦戸主任と安田先輩は、

一気にみんなに囲まれて、
３次会へと連れられて行ってしまった。


遠くから、
安田先輩に、
手話で、


(Aさんも行こう)

って誘われたけど、
断って、

まだ小雨の降り続く、
駅のホームに、立ってる。


補聴器をつけると、
雨音と人の足音が、
混ざって、耳鳴りがする事がある。

今日は特にひどくて、
目眩まで、感じる。


会社の人との付き合いはなるべく、
避けてきたけど、

ボーリングは自分が思ってたよりも、
心が弾んだ。


坂田美夕さんは、優しい落ち着ける人だし、

安田先輩も優しい。

まさか手話が出来るなんて、
知らなくて、びっくりしたな。

でも、錦戸主任は、
なんだか、少し不機嫌だった気がする。

ボーリング、あんまり好きじゃないのかな。

安田先輩に負けて、
悔しそうにしてる、

錦戸主任の横顔ばかりが、

勝手に胸に浮かんでくる。

消そう、消そう、としても・・・



ちょうど電車が入ってきた時、
肩を叩かれた。


振り返ったら、
息を切らした錦戸主任で・・・

驚いた、なんでものじゃなかった。


わざわざ、
追いかけて来てまで、

子供がつけるような、
おもちゃのビーズの指輪、
返しに来てくれたんだろうか？

こんな、みんなから憧れられるような人が？


電車のドアが開く。


「この電車？」


錦戸主任が、何か聞いた。

扉が閉まる前に・・・


「行こ。乗り遅れる」


また、錦戸主任が何か呟いて。


手首を掴まれて、
人波と一緒に、その箱の中に二人して、
収まった。

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