僕が君の傘になろう。

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錦戸主任が、


『ごめん。
嫌ならええねん』


そう書いて見せてくれた時、
乗り換えの駅に着いた。


立ち上がって、
お辞儀をしたら、
錦戸主任も電車降りて、
付いて来る。


錦戸主任がどこに住んでるかなんて知らないけど、
偶然なわけない気がして。


(主任も乗り換え、ここなんですか？)


手話で聞きかけて、やめた。


錦戸主任が、
注目を浴びて恥をかくのは、
どうしても嫌だ。


自分が乗り換える電車を指差して、
示したら、
錦戸主任が、にこって笑ってうなづいた。



結局、どうしてこんなに優しくしてもらえるのか、
理由も分からないまま、
家まで送ってもらってしまった。


改札を出て、
錦戸主任があんまりにも当たり前のように、
歩き出すから、
断れるような雰囲気じゃなかった。


会話なんてなくても、
隣に錦戸主任が歩いてるって思うだけで、
たまに偶然、肩や肘が触れるだけで、

頭が真っ白になって、
呼吸困難になりそうで、

ビーズの指輪のことなんて、
すっかり忘れてしまってた。



ここです、って言う代わりに、
家を指差した時、

玄関のドアの前で座り込んでたらしい、
最近、再会したばかりの弟の智洋が、
飛び出して来た。


(姉ちゃん、おかえり。
遅かったやん。
その人は？
姉ちゃん、彼氏おったん？)


手話で話してる私たちを見て、
錦戸主任は、ぽかんとしてる。


慌てて、


『今日は送って頂いて、
ありがとうございました』


そうサイン帳に書いて、
頭を下げた。


「ああ、うん。
また月曜に、会社で」


錦戸主任、何か早口に言って、
慌てた感じで帰っちゃった。


結局、ビーズの指輪も返してもらってないし、
連絡先も、交換出来なかった。


そのことに、がっかりしてる自分がおかしくて、
少し笑えちゃう。

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