僕が君の傘になろう。

３ ページ11

私にそれを差し出した表情は、
からかってるみたいに見える。


『ボーリング、はじめてしました』


「ほんまに？」


何か早口に言って、目をまん丸にした錦戸主任。


仕事中とは違って、
急に幼く見えて、
また、胸がきゅっと鳴いた。


私、おかしい。

こんな気持ちになるなんて。


昼間、倉庫で、
完璧な人に片想いでもすればいいなんて、
ちらっと頭をよぎったけど。

まさかこれじゃ、本当に・・・


『どうりでヘッタクソやったな』


隣で一心不乱にスマホ見てた学生風の男の人が、
私たちのやりとりに気付いて、
訝しげに、こっちを見た。


もう一度、手渡されたサイン帳を、
閉じて、何も書かずに返した私に、

錦戸主任は、眉を下げて、
下がった目元ももっと下げて、
今にも泣きそうな顔になった。


『ごめん。からかっただけやねん。
怒らせた？』


なんか、勘違いされてる。


『違います。
人が見るから・・・
錦戸主任が、恥ずかしい思いします』


慌てて書いて、返したら、
すごくすごく、ホッとしたみたいに、
胸を撫で下ろしたから、
びっくりした。


「じゃあさ・・・
これならええやろ？」


錦戸主任がポケットから、
携帯を取り出した。


連絡先、ラインの交換。


・・・どういう意味？


高橋さんとのことが蘇って、
不意に、身構えてしまった。



男の人は、
いつだって、身体の関係を持つまでは優しい。


なんとかして連絡先を聞き出して、
食事か映画を見て、
それで、ホテルに・・・

一度きりのこともあったし、
都合の良い時だけ呼び出す人もいた。


飽きた途端、
私のことなんて、
みんな、最初からいなかったように振る舞う。


私は誰にも、本当には愛されない。

価値のない、人間。



錦戸主任とは、そんな風になりたくない。


迷ってると、主任は、
捨てられた子犬のような、
悲しい顔になった。


錦戸主任のような、
女の人に言い寄られ過ぎて困ってるような人が、
私とそんな関係になりたいなんて、
思ってるはずない。


私の思い上がりに決まってる。

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