・ ページ47
・
慌ててニットの襟を寄せて、ユキさんが俯く。
それはつまり、ユキさんもつけられた自覚があるってことで。
チクチクする嫉妬心を沈めたくて、大きく息を吐く。
やっぱ一筋縄には行かへんよな。
ユキさんに恋してから、ずっと一喜一憂の繰り返しで
それでもやっぱり嫌いにはなれへんから。
落ち着け、落ち着けって自分に言い聞かせながら
なるべく明るく聞いてみる。
「俺の知ってる人ですか？
嶺亜くん？橋本くん？」
知ってる名前を挙げていっても表情は変わらへんまま。
「それとも、まっさん？」
口元をきゅっと噤んで、視線が下に逃げる。
それだけやのに、当たってるって分かっちゃう自分が今はめっちゃ嫌い。
「……やっぱ、まっさんやないとあかんの？」
つい、口から零れた本音。
子どもみたいな嫉妬。
ユキさんの襟を掴む手に、少しだけ力が入る。
いつまで経っても、勝手に好きなんは俺ばっかりで。
それでも、もう、
勝負するって決めたから。
一瞬、目を逸らしておっきく深呼吸する。
頑張れ俺、負けるな自分。
魔法の言葉心の中で呟いて、もう一度ちゃんとユキさんを向き合ったら
首元を隠してる手を外して
もう一方の手も取ってそっと繋いだ。
「ユキさん。
俺は、ユキさんのことが好きです」
結「……大晴くん、」
俺の告白に、ユキさんの瞳が少し見開く。
そわそわしてる手を、離されへんようにちゃんと捕まえる。
お願い、ちゃんと最後まで聞いて。
「説明会の時にユキさん見て、一目惚れして
そっからずっと、好きでした。
まだまだ子どもっぽいとこあるし、
今やって、ほんまはバチバチに嫉妬してて。
嶺亜くんにも橋本くんにも晶哉にも、それにまっさんにも」
握ってる手を親指でそっとなぞったら
きゅ、って指先に力が入って、それだけで愛しくて。
「でも、ユキさんのこと好きな気持ちは、他の誰より強いと思ってます。
そうやないと、こんなキスマつけられて平気ちゃうし。
やから、」
あかん、ちょっと声が上擦ってまう。
もう少しやから、頑張って。
「いっぱいユキさんを幸せにしますから
……俺と、付き合ってくれませんか？」
一番大事なその台詞は、
『夏バケ』の初演の初台詞より、声が震えてた。
心臓がばっくばく言うてて、
口ん中カラッカラで。
永遠に思えちゃうくらい長い一瞬の後、
ユキさんが、口を開いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 196人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マリア | 作成日時：2023年11月4日 1時
