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良「ほんなら、俺がおねだりしたら聞いてくれるん？」
すぐ目の前にある濃黒の瞳が、ゆらりと欲動に揺れる。
「正門、ちょっと待って、」
押し返そうとした両手をいとも簡単に
恋人繋ぎして壁に縛りつけたら、
良「……なぁ、ちゅーしよ」
「待って、んんっ、！」
暗く熱った瞳が近づいてきてそのまま唇を奪われた。
ちゅ、
ぢゅっ、
厚い唇が音を立てて何度も重なる内に呼吸が荒れて、
苦しくて口を開いたら
それを狙ってたみたいに正門の舌が入ってきて。
「正門、らめ、」
良「だめちゃうよ、こんなやらしい顔して、」
「ちが、やぁっ、」
逃げても逃げても絡みとられて深くなるキスにくらくらしてくる。
気持ちいい以外の感情が溶けてなくなる。
どうしよう、
もっとほしい。
お腹の奥がとろけて、力が抜けた身体を正門に抱きとめられて。
「はぁ、はぁっ……ん、」
良「はは、気持ちえぇって顔してんで。お嬢さん」
「え っちやなぁ」って濡れた唇を軽く拭って
頬、耳、首筋と順に口づけられる。
もうダメ、これ以上は本当にだめ。
シャツが捲られ脇腹にひんやりした空気を感じて
ようやく正気に戻った。
「正門待って。
本当にだめなの」
良「なんで？」
「約束があるから。もう行かないと」
熱っぽい瞳に見つめられて身体が疼くのを隠しながら、
硬い胸板をできるだけ押し返す。
「……ごめん、」
良「……そっか。
俺の方こそ、時間ないのにごめんな。
ちょっと悪戯が過ぎてもうたわ」
へらりと笑って、また頭を撫でたら
部屋に戻っていった正門を見送って、ズルズルとしゃがみこむ。
まだ身体の疼きが収まらなくて
大きく呼吸してないと、理性がまた溶けそう。
なんで今、キスしたの。
今までずっと、唇にはキスしてくれなかったのに。
今日に限って。
熱くなった頬を冷ましたくて
もう一度洗面所で顔を洗ったら
鏡に写った自分は、絆されたオンナの
ヴヴヴ、ヴヴヴ！
「ひゃっ、……あ、アラームか。
え、もう9時！」
振動を止めたらもう9時5分前で
いよいよ急がないと間に合わないから
慌ててリビングに戻ったら
できるだけ正門と顔を合わせないようにバッグに荷物を詰め込んだ。
良「あらら、ほんまに急ぎやったんか。
バイト？」
「そうじゃない、けど、」
「ふぅん」って勘ぐるような声を背中に感じるけど
今は知らんふりを決め込むしかない。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年11月4日 1時
