・ ページ36
・side.Yuki
バイトが終わって電車に乗ってたら
正門との電話が妙に気になって。
そわそわする胸騒ぎに後押しされて
近くのコンビニで風邪の差し入れっぽいものを適当に買いこんだら、
うろ覚えの記憶を頼りに
正門のアパートまで来た。
そう言えば、最近来てなかったなって
階段を登りながら思う。
お風呂場のシャンプー、
買ったばっかりだったけどまだ残ってるのかな、なんて
今はどうでもいいことを気にしながら階段を登り切ったら
語呂合わせで覚えた部屋の前に立つ。
ドア前でごそごそしたら怖いよねって、一応2回ベルを鳴らしてから
ドアノブにかけようとしたら
先にそれが回ってドアが開いた。
良「え、……どうしたん？」
見覚えのあるスウェット姿で驚いてる正門に理由を説明したら
急に泣きそうな顔で、抱きしめられて。
ぎゅっとしがみついてくるような力に
身体が緊張して、
ゆっくり腰に腕を回す。
結「……苦しかったね、」
肩口にぐりぐり埋めてる頭をそっと撫でたら
「うん、」って弱々しく頷くから
正門らしくなくて、放っておけなくなる。
しばらく黙って玄関先で抱き合ってたら、
話し声が近づいてきたからそっと身体を離す。
「正門、大丈夫？」
って聞いてみたらぽやぽやした顔で
良「お腹空いた、おかゆ食べたい」
って子どもみたいに笑うから
帰る訳にはいかなくなって、久しぶりに正門の部屋に入った。
洗面所の物の場所は何も変わってなくて
部屋にはギターが1本増えてた。
念のために、もう1回体温を測ってもらったら
38.2度って相変わらず高いまんまで。
冷たいシートをおでこに貼ってあげたら
「きもちぃ」って猫みたいに喉を鳴らすのが可愛くて、
つい頬を撫でたら
熱っぽい瞳でじっと見つめられて、慌ててキッチンに逃げた。
良「おかゆって言うたけど、お米あったっけ……」
「なかったらおにぎり使うからいいよ。
最近自炊してなかったの？」
キッチンで手を洗いながら聞いたら、
パソコン机の椅子に座ってこっちを見ながら
正門が首を傾げた。
良「自炊って言えるほどのものはしてへんかも。
酒のあて買って、呑んで、寝ての繰り返しやったから」
「酒門」
良「あんま寝付かれへんねん。
そんでギター触ったり、酒飲んだりしてたら生活リズム崩して。
やから風邪もらったんやろうな」
何でもないようにそう言うけど、
自制ができる正門がそうなるのはかなり珍しいから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 196人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マリア | 作成日時：2023年11月4日 1時
