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人の字を10回くらい書いては飲んで、書いては飲んで。
通り過ぎたお兄さんが怪訝な顔してたけど
そんなの気にしてる余裕はない。
……肩から腕の筋肉、カッコよかったなぁ。
「はっ！！」
人の字追加であと5回。
「ふぅ……、」
ずるずるしゃがみこんだら
まだ熱いほっぺを触る。
見た目はマシに見えるようになったけど
恋愛なんてマンガの中でしかしたことないから
実物の男の人の身体をまじまじ見たことなんて、もちろんない訳で。
「……胸板、しっかりしてたなぁ」
ぎゅってされたら、気持ちいいのかな……。
「〜ッ！！」
やっぱり、もう10回は人の字がいるかも。
人、人、人……
7回目を書いて飲み込んでたら、
トントン、
良「お着替え終わったで」
「は、はひ！！」
大丈夫、あと3回間に合ってないけど
きっと冷静でいられる。
頑張れ私、負けるな自分。
ファイト、ファイト！！
ごくりと喉を鳴らして、扉を開ける。
自分の脈拍が耳の裏でドクドク鳴ってる。
良「じゃーん、どうでしょ(笑)」
「……」
おどけて広げた腕に翻る、白い打掛けが綺麗で。
「……王子様、」
マンガの中でしか生きられない人なんだって思ってた。
なのに、今目の前にいる人は
間違いなく、ちゃんと生きてる人であって。
だけど、こんなカッコいい人見たことなくて。
良「え、エリーちゃんどうしたん？
似合ってなかった？はしゃいじゃあかんかった？」
「……生まれてきてよかった、」
良「えっ、」
神様仏様ビリケン様ありがとうございます。
冴えない人生だって思ってたけれど
今、最上級に幸せです。
「……もうこの世に思い残すことない、」
良「さっきと言うてること真逆やで？自分」
正門先輩が何か言ってるけど
よく分からないくらいぽーっとした気分で先輩を眺める。
喉仏が綺麗な首筋のライン、
広い袂も華奢な袖もどっちも似合ってるし、
しっかりした腰元からゆったりと伸びる袴もいい。
360度どの角度から見てもカッコいいなんて
なんて罪な人なんだろう。
「えへへ、」
良「え、怖い怖い。
エリーちゃんさっきから挙動が不審やで？」
「すごい、本物……」
良「え、スルー……？」
じっくり正門先輩の衣装姿を目に焼きつけたら、
あ、いけない写真撮らないとってスマホを取りにテーブルに近づく。
うふふ、どんなポーズ取ってもらおうかなぁ……？
良「はい、捕まえた」
ガタン、
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作者名：マリア | 作成日時：2023年11月4日 1時
