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菊「え、」
キク子先輩の口から小さく漏れる声。
「『ジュエリーゼ』の映像を見て、
“エリーちゃん”みたいになりたいなぁ、と思って。
皆さんが、私を“エリーちゃん”と呼んでくださるので、
私も、そんな女の子になりたいんです」
舞台上のエリとエリーゼは
本当に宝石みたいに輝いてて、
私にはないものがいっぱいあって、女の子を楽しんでた。
だから、私がもしエリーちゃんみたいになれれば、
もしかしたら、
―お疲れ様ですぅ……、ってみんなどうしたん？―
いつも通りののんびりした声に、ハッとして振り返る。
良「あらら。エリーちゃんえらいべっぴんさんになったなぁ」
目が合った瞬間、
少し大きくなった目をふにゃって崩して
正門先輩が微笑んだ。
「正門先輩、」
菊「さすがまっさん、やっぱ分かるんやなぁ」
良「えぇ？
いや、だってエリーちゃんやん。
え、誰か分からへんかったん？」
菊「ですって、誠也先輩」
誠「いやよぅ見たら分かったで俺やって！」
菊「うちが言うまで気づいてなかったやん」
誠「いや、だって！」
キク子先輩に抱きしめられてるせいで
いつもの言い争いに巻き込まれて
耳元できゃんきゃんした声を聞き流してたら
そっと手を引かれてキク子先輩の腕の中から抜け出した。
良「はい、避難完了」
「あ、ありがとうございました」
良「あっこから逃げ出すんは至難の業やからなぁ(笑)」
正門先輩の隣まで引っ張られたら
つい、チラッと見てしまう横顔。
良「ん？どした？」
「あ、いえ、」
やっぱり、そんなに変わってないのかな。
オシャレなワンピースの裾を摘まんでみる。
良「かわえぇなぁ、それ」
つん、と摘まんでるところを日焼けした指先がなぞる。
じれったいような手つきで、ゆっくりと。
良「デートにでも行くん？」
「い、いえ。そういう訳では、」
良「なら、大事なご用事？」
「え、……あるいは、そういうことでもあります」
正門先輩に褒めてもらいたいっていう
大事な、ご用事。
「ふぅーん」って腕を組んだ正門先輩が
顎をくっとあげたら、綺麗な喉仏が上下する。
良「なんか、お嫁に出す気分やな」
「え、」
良「かわえぇ娘を、お嫁に出す気分」
「わ、私ですか？」
良「そ。幸せになってくれって思いつつも、
どっかつまらん気持ちになるんやなぁって」
「ん、」
急に前髪に伸びてくる手に、思わず目を瞑る。
良「……誰のためやろ」
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作者名：マリア | 作成日時：2023年10月22日 2時
