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こっちを振り返らないまま、先輩がそう聞くから、
なんて答えたらえぇか分からなくて。
でも、ここでふざけて返すんも
意地張るんも、なんか違う気ぃして、
「……嫌やな、とは思いました」
素直に、そう答えた。
健「嫌なん？」
2歩先の小島先輩が聞く。
「前に小島先輩、
私が誰かと付き合う時は、俺に言うてからにして。って
言ってたじゃないですか」
健「おん、言うたな」
「……それと、おんなじです」
そう、ちゃんと言うてくれな嫌なだけ。
誰かと付き合ってほしくないとか、そういうんじゃなくて。
そういう風に伝わってくれたらいいなって気持ちで答えたら、
先を歩いてた小島先輩が足を止めた。
健「……おんなじって、おんなじなん？」
振り返った小島先輩の目が
少し揺れてる。
健「ほんまに、俺と同じ気持ちで言うてる？」
「それは……、」
小島先輩の気持ちがどうかは分からへんけど、
私だけの気持ちで言ったら、
本当は違うのかも知れへん。
だって、本当は聞きたくないから。
小島先輩が誰かと付き合うなんて、そんな報告。
健「よっしー、」
「……はい、」
健「……あんま、思わせぶりなことしたらあかんで」
俯いてた顔をあげたら
小島先輩の手がこっちに伸びてきて、
だけど止まって、
そのまま先輩のズボンに手は入ってしまった。
「小島先輩、」
なんで、そう続けようとしたのに、
健「あ。あと30分で集合やから
早よ行って戻らな。
ほら、行くで」
また、顔を見せないで歩き出した小島先輩に
胸が詰まってくる。
何か悪いことしてしまったんだろうか。
何も話さないままどんどん進んでく小島先輩に
そう聞きたくても、聞けなくて、
あっという間に駅についてしまって。
「小島先輩、あの、」
健「じゃあ、気ぃつけて帰れよ。
また連絡するわ」
私の言葉なんて聞きたくないみたいに
さっと背中向けて帰ってく小島先輩を
駅の入り口で、ただ見てることしかできなかった。
「え、……」
何があかんかったんやろう、
やっぱり、素直に「嫌でした」なんて言うたらあかんかったんかな。
重いって思われたかな、
めんどくさい後輩やって、
どうしよう。
咄嗟にスマホを開いて、ほたるちゃんの名前を探す。
けど。
―……大晴の、マドンナや。―
それは、あまりに虫のいい話すぎて、
トーク画面を閉じたら、
ジクジクする気持ちを抱えて改札を通った。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年10月22日 2時
